61 ミッキーの上司
皆で合宿所へ戻る途中、グラウンドの中央付近に人の姿を見た。
「あれは誰だろう?」
私の言葉に、皆が足を止めて同じ方向を見る。
そこには月光の薄明りの中、スーツ姿の男性が佇んでいた。年齢は30代くらい。細い目、面長の顔、そして長身長髪のイケメンだった。
「あれは……関谷課長?まさかダイブしてきたの?!」
ミッキーが驚く。
「君の上司なのかい?」
「直属ではありませんが、他部門の課長です。まさか、この現場に直接出向いてくるなんて」
「あら。ハンサムな人ね~」
涌井さんがニヤニヤしながら喜んでいる。
課長と呼ばれたその男は、長髪を片手でかき上げながらキザっぽく言った。
「やあ、三木君。任務遂行に手間取っているようだね」
ミッキーはビシッと敬礼すると、気をつけの姿勢で答えた。
「想定外の事が多く発生していますが、あと一歩で解決します」
「なるほど。で、この方達が、例の?」
「はい。ホストの涌井さん、協力者の北村さん、ダブルホストの星澤さんです」
関谷は微笑みながら我々へ向かって敬礼した。
「機関の特殊工作課・課長の関谷省吾です。こちらの夢世界では、珍しい現象が多数確認できると報告を受けたので、私が出向いたという次第です」
我々は訳が分からず「はあ」とだけ答えた。
「で、あなたが北村さん?まるっきり高校生だけど、本当に中身は35歳の人なの?」
関谷は、私の足先から頭までを興味深そうにじろじろと見た。
そして小声で「素晴らしい」と言った。
22時。
空腹だった私達は合宿所へ戻ると、カップラーメンを食べた。
先ほどまで戦っていた事が嘘のように和気藹々としている。チィも望んでいたバトルごっこに満足している様子だった。
「ここは素晴らしい。このようにメシも食えるし、モノに触れることも出来る。地平線まで街が連なっており、時間の流れまである。これを放っておく手はない」
ラーメンを片手に、折れんばかりに箸を握りしめる関谷。その言葉の意味が理解できなかった我々は、首をかしげつつ顔を見合わせた。
「あの、課長。一体何をおっしゃって……」
ミッキーが訝しむ。
「ああ、スマンスマン。つい興奮してしまった」
関谷は慌てたようにラーメンを啜ると、コップの水を一気に飲み干した。




