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59 北村vsチィ

 今度は私の番だ。

 右手を上げると、電気のスパーク音と共に青い電光剣が伸びた。私は彼女を流し目で見据え、低めの声で言った。

「暗黒戦士、北村。見参!」

「兄者……」

 チィが切なそうな視線をこちらに向けた。


 昼間、ミッキーから七界大戦の内容について聞き、魔法バトルについてのレクチャーも受けたが、実際のところ何だかよく分からなかった。

 だからチィの夢Pに合わせようとすると、時代劇や歌劇の分野を参考にするしかない。私の振る舞いは、ややオーバーアクション気味の演技になるのだが、むしろチィの好みに合致したらしく、熱くノって来た。


「妹だからといって手加減はせぬぞ!」

 私は素早く動いて間合いを詰め、剣を振り下ろした。

 チィがバトンでそれを受ける。

「兄者やめて!やっぱり、あなたとは戦いたくないっ!」

 私は左手でチィの肩を抱き寄せ、

「何を甘えた事を言っているのだ。この戦いを望んだのは、お前であろう」

 と、その耳元へ囁くように言ってから、再び突き放した。

 よろけたチィが「ああっ」と言いながら、ナヨナヨと地面へ倒れる。


 こんな感じの演技でどうだろうと思い、ミッキーと涌井さんを見ると指でOKサインを出している。女の子に暴力を振るうのは忍びないが、今の場合は仕方がない。この調子で進めよう。

 立ち上がったチィが、激しくバトンを振り回す。

「兄者、思い出すのじゃ!天界にいた時の事を。そして私の事を!」

 双方の武器がぶつかり合うたびに、周囲へ青いイナズマが走った。

「過去のことなど知らぬ。さあ、もっと戦え!」

 再びチィを突き飛ばし、昼間に練習した中二病ポーズで左手の竜のタトゥーを見せつける。

 私の背後では赤黒く邪悪なオーラが渦巻き、その中に凶悪な竜のシルエットが立ち上った。まさしく絵に描いたような悪役に、チィは目を輝かせながら「おおっ」と感嘆の声を漏らした。

 これが彼女の望んでいた七界大戦的なバトルなのであろう。私は更に煽ることにした。

「お前も暗淵に堕ちろ。漆黒の闇に抱かれながら、共に混沌の中で生きようではないか」

 ヌハハハ!と高笑いすると、背景の巨大な龍もそれに呼応するように不気味に蠢いた。


「私が未熟なせいで、兄者を暗黒竜の餌食にしてしまった……!」

 バトンを剣のように構えたチィが、再び魔法の呪文を唱えた。

「天と大地の神よ。混沌の闇を祓う浄化と清涼の永久なる息吹をここへ……究極魔法、天啓波動砲(アポカリプス ブラス)!」

 突然、私の周りに複数の魔法陣が出現し、鋭い光を放射し始めた。

「こ、これはなんだ?攻撃魔法ではない?!」

「兄者の中の闇を浄化する天の光じゃ」

「やめろっ!ぐわぁぁーっ!」

 苦しんでいるフリをしつつ、マントに隠し持っていた水筒の水を素早く左腕へかけて竜の絵を消す。そして空を仰ぎながら出来るだけ派手にもがいた。

「私の闇がっ。龍が消えていくぅぅ!」

 地面へバタリと倒れると、魔法陣が消えていき、辺りは暗闇と静寂に包まれた。


 私は光の戦士との戦いに負けた。

 体内に巣食っていた暗黒的なものは先ほどの光で浄化され、元々の人物設定「剣王」へ戻った———この先は、そういう演技をしなければならない。

 私が若い時に楽しんだRPGというゲームにも、そういうシナリオがあったような、なかったような。

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