57 ミッキーvsチィ
そして夜を迎えた。
光る砂を撒いたような満天の星と、いつもより一段と大きく見える満月が狩谷高校を妖しく照らしている。
グラウンドの中央で待つ我々を取り巻くように風が吹き、2人の女子の髪を揺らした。
チィは約束通りきっかり20時に訪れ、30メートルほどの距離を空けて対峙した。そしてコスチュームに身を包んだ私達をゆっくりと見渡し、満足そうにニヤリと笑った。
彼女の夢Pがビシビシと伝わり始め、やがて爆発するような勢いで周りの雰囲気が一変した。
月は真っ赤に染まり、グラウンドだった場所は、雑草や枯れ木に覆われた荒野へと変化する。おどろおどろしい戦いの舞台が、我々を取り囲むように出現した。
「す、すごい!他人の夢世界でこれだけの夢Pを発動させるとは……妄想力の桁が違いますっ」
「これもやっぱり物語の場面なのかい?」
「はい『星屑荒野での闘い』のシーンです」
「さあ、勝負だ!」
チィがバトンをクルクルと回し、横一文字に構える。
「では、私から行きます」
ミッキーが数歩前に進んで、拳法使いのようにクルリと両腕を回すと、胸の前に構えた。
「八芒剛神の名において、光と闇の精霊に命ずる。敵を打ち、我を守る二対をここに!聖双龍薇!」
光る鞭がいつもよりやや派手めに伸びてくる。
少女がバトンを空へ向かって高く掲げ、呪文を唱えた。
「光の女神降臨!汝との盟約により我に光と力を与えん!」
バトンが一気に巨大化し、少女の背丈を越えた。そして眩い光を放ち始め、輝くパーティクルが少女の身体を取り巻くように回った。
「喰らえ!天界聖矢!」
チィがバトンを振り下ろすと、その先端から何本もの光線が空に向かって飛び出した。
ミッキーが鞭を回しながら叫んだ。
「混沌炎障壁!」
メイド服のスカートがバサバサと揺れ、ミッキーの周囲に魔法陣のような円板状の光が現れた。
それは盾となってチィの攻撃を弾き、ドカドカという音と共に火花と放電のスパークが立ち上がった。
光の円盤は完璧にミッキーを守り、全く攻撃を受けていない。なるほど、彼女はバリアが得意だった。
光のエフェクトと爆煙に視界が遮られたチィには、ミッキーへ魔法が当たったように見えたらしい。
「どうじゃ。参ったか!」
と、ドヤ顔で言う。
「ううっ!やられた!」
わざとらしく胸のあたりを押さえてバッタリと倒れたミッキー。
チィはバトンをクルリと回して「闇よ滅せよ!」と、満足そうに決めゼリフを言い放った。




