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56 チィの夢P

 急に濃い夢Pが辺りを支配し始めた。

 皆はその雰囲気へ引き込まれ、考える間も無く強制的に演劇舞台の中心に立たされた。

 合宿所の食堂だったはずの空間が、廃墟となった教会内部へと移り変わる。


「おっと、急に来たわね。それにしても中二病?ってすごいわ〜。合宿所をこんな風に変えちゃうなんて」

 涌井さんが周囲を見渡しながら感心していたが、ミッキーは戸惑いながら周りをキョロキョロと見ていた。

「こ、これは陰陽時空教会?!」

「なに、それ?」

「物語に登場する暗黒世界と現世を繋ぐ場所なんです。すごい完成度……チィさんのイマジネーション力は強いです」

 チィの夢Pが、この場の雰囲気に合わせて演じよと激しく私を煽ってくる。私は昨日と同じく、時代劇や歌劇を参考とする事にした。


「フッフッフ」

 私はモデル立ちで不適に笑って見せた。

「其方に兄と呼ばれ、そして光の戦士だった事もある。だが、今の俺は闇の眷族だ」

 歌劇の男役のように振る舞い、チィのウェストに手を回して少々乱暴に引き寄せる。

「妹よ。自らここへ赴いたという事は、暗淵へ堕ちる気になったという訳か?」

 出来るだけニヒルでキザっぽく語る。そう、私はかつて善良で勇敢な戦士であったが、今では闇落ちした冷酷な狂戦士なのだ。


「俺達2人の力を持ってすれば、この国を手中に納めるなど容易い。王となることも夢ではない!」

「それは謀反じゃ。どうか正気に戻ってください!」

 叫んだチィが私の腕から逃れ、シナシナと床に座り込む。

「この左腕に封印した暗黒竜が力の源となっている。俺の魂は既に闇の王と契約を交わしたのだ」

「その包帯は、私を暗黒竜の攻撃から守った時のキズ……?」

「その通り。見よこれを!俺と暗黒竜の魂は互いに溶け合っているのだ」

 私は左腕の包帯を乱暴に解いて、その隙間から覗く竜のタトゥー模様をチラリと見せた。

 このタトゥーはミッキーが水性ペンで描いたものだ。


「ここにいる2人の女子も元々は天界の住人にして光の戦士。俺と共に暗淵に堕ちた女戦士だ」

 涌井さんとミッキーも悪ぶったポーズでこの場の雰囲気に合わせ、チイを煽った。

「そうよ!あなたもコチラ側へいらっしゃい。とっても素敵なんだから」

「ええ。暗淵は楽しいですよ」


 驚愕の眼差しで我々を交互に見つめていたチィであったが、やがて唇をキュッと結び、ついと立ち上がった。

「やはり、兄者達とは闘う運命のようじゃ。闘う事によって私が闇の邪気を祓う!」

 彼女はゆっくりと出口に向かって歩き、背中を見せたまま語った。

「馳走になったな。感謝する。だが、闘いは手加減せぬぞ。今夜20時に来る」

 チィが教会のドアから出て行くと、夢Pの雰囲気が消えていった。周りの風景も急速に復元され、合宿所の食堂へと戻る。


「やるじゃない、北村クン!ますます演技に磨きがかかってきたわ」

 涌井さんが私の背中を叩く。

 ミッキーも顔を真っ赤にして飛び上がっていた。

「すごいです。カッコ良かったです!本物の暗黒戦士のようでした。これで彼女はすっかりその気になり、満足度が上がります」

 そしてキリリとした目線で私達を見た。

「今夜20時の七界大戦ごっこ。どうか、よろしくお願いします」

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