54 張り切るミッキー
翌日から、七界大戦ごっこへの準備を開始した。
最も張り切っていたのはミッキーで、朝早くから校内を物色し、3人分の衣装を調達してきた。
「部活棟に色々なものがありました」
彼女は嬉々としながら食堂の長テーブルにそれらを並べた。
「七界大戦は衣装デザインも秀逸と評価されており、演じるためには見た目の装飾も重要です。というわけで、北村さんはこの衣装を身につけていただきます」
そこには、革ジャンとブーツ、鋲打ち指なしグローブなどが並んでいる。
「そして左腕には、包帯も巻いてもらいます」
「怪我をしている、という設定なのかい?」
「暗黒魔王に捕らわれた兄キャラは、左腕に暗黒竜を封じ込めているので、いつも包帯を巻いているんです」
なんだか良く分からないが、中二病の世界というのは、そういうものなのか。
「涌井さんはこちらです」
テーブル上には、ゴーグルとグローブ、白いTシャツとデニムのホットパンツがある。
「ずいぶん本格的ね」
「闇の眷族の中でも、素早さと攻撃力の高い魔女です」
「魔法使いに素早さが必要なの?」
「敵からの攻撃が来る前に全員へ反射障壁や防御魔法をかけたり、蘇生術を行い……」
嬉々として説明しているミッキーの前で、涌井さんの目が次第に虚ろになっていく。私と同じように理解に苦しんでいるようだ。
「私のは、これです」
ミッキーが広げて見せたのは、メイド風なヒラヒラしたゴスロリ衣装だった。
「八芒伯爵家に仕える人造人間メイドです。可愛くて、私のお気に入りキャラなんです」
「……あなた、この状況を楽しんでいるわね」
「闇の眷族は魔法を武器化したものを使用しています。なので、皆さんが持っている現状の想像兵器で十分対応できますが、やはり雰囲気が必要です。例えばこんな具合に武器を呼び出します」
ミッキーが直立不動の姿勢からサッと両手を挙げて、拳法家のように素早く構えた。
「八芒剛神の名において、光と闇の精霊に命ずる。敵を打ち、我を守る二対をここに!聖双龍薇!」
呪文のような言葉を言い終えると、彼女の両手からいつもの光の鞭が延びてきた。
「おお~」
私と涌井さんは拍手した。
「なるほど。確かにそれっぽいね」
「あんな長々とした呪文なんか言えないわ。あなたはどこで覚えたの?」
「漫画の戦闘シーンに出てくる言葉なので、いつの間にか覚えてしまいました。魔法を使用するには詠唱が必要なんです」
「私達は何て言えばいいのよ?」
「うーん。できるだけ格好良い、それっぽい言葉を言ってください。では、説明します。まず魔法には攻撃と防御が……」
こんな生き生きとしたミッキーを見るのは初めてだった。




