53 作戦会議
「まず、この事案に関してまとめよう」
私は壁掛けの黒板へ、
『最終目標=ミッキーと北村、およびバトン少女のリアルワールドへの帰還』
と、チョークで書いた。
「この為の条件としては……」
『涌井さんと魔法少女の満足、および、ゲートの発見』
と、書く。
「ゲートの所在に関しては、現状では全く手掛かりが無いので、今のところ我々の目標は2人の満足度を上げる事ではないだろうか」
私は涌井さんと魔法少女の文字を丸く囲った。
 
「提案です」
ミッキーが手を挙げる。
「涌井さんの夢に対して、魔法少女の夢が干渉している以上『バトン少女の満足』を優先させるべきだと思います」
「確かに。では、彼女の満足を得られるためには、どのようにすれば良いかと言うと、これだ」
『七界大戦ごっこ』
と、書く。
女子2人が何度も頷いた。
「そこで七界大戦についてだけど、詳細をミッキーから話してもらおうかな」
「はい。では僭越ながら私が説明をします」
立ち上がった彼女は、エヘンと一つ咳払いをした。
 
「簡単に言うと、光の戦士達と闇世界の魔導師達の闘いの物語ですが、国家間の戦争や男女の恋愛などが複雑に絡んでいます。舞台は中国っぽい異世界。魔法や怪しげな錬金術、それに相反するような高度なテクノロジーが登場します。コミックは1冊650円とお子様のお財布にも優しい値段設定、そして最近ではソーシャルゲーム化もされ、ファン達が喜んでいます。実は私もその1人です」
まるで営業マンのような口ぶり。実に楽しそうだ。
 
「ところで、僕は成り行きで彼女の兄になってしまったけど、そういった設定は出てくるの?」
「はい。偶然にも第8巻に描かれている『混沌からの帰還』というシーンにそっくりです。暗黒魔王に捕らわれた兄が洗脳された状態で、妹と再会するという悲しい場面です」
 
「……ちょっと待って。話について行けないわ」
そう言って涌井さんがこめかみに手を当てた。
「ソーシャルゲームって何?」
「スマホで遊ぶゲームさ。今ではわりと一般的な……」
話の途中で、背後からミッキーが耳打ちした。
「涌井さんの記憶はかなり前でストップしているので、知らない事が多いと思います」
言われて気がついた。
「そう言えば、そうだったね」
「なにをコソコソ話しているのよ。ちゃんと言いなさいよ」
「わかりました。ご説明します」
ミッキーが背筋を伸ばし、大きく息を吸い込んだ。
「平成は終わり、今は令和の時代となりました。社会は移り変わり、スマートフォンというマルチメディア機器が台頭し、世界はインターネットで……」
「何ですって?平成が終わった?!」
涌井さんが椅子を蹴って立ち上がった。
 
「令和?なにそれ。ダサい年号ね。もっと、こう、今っぽい名前を付けられなかったの?で、スマートフォンってなに?」
「えと。こういう四角い形で液晶画面が付いていて……」
「インターネットは知っているわよ。モデムに繋いでピーガガガって鳴るやつでしょ?ダイアルアップって言ったっけ?電話代が高くなるのよね、あれ」
「あのう、今は光回線や5Gの世界なのですが……」
 
涌井さんへの説明を終えた頃には真夜中になっていた。
 




