52 バトル系少女漫画と中二病
合宿所の談話室へ戻った私達はテーブルを囲み、お茶を片手に話し合った。
「涌井さんの意識が、魔法少女さんの夢世界に干渉されています。ですから夢Pが発動しないのです」
ミッキーがやや興奮気味に話す。
「夢世界に2人の主が存在する、いわゆるダブルホストと言う現象で、かなり特殊です。学会で発表できるレベルです」
「人の夢の中で勝手なことばかりして腹立つわ〜。焼き肉だってまだ途中だったのよ。食べ物の恨みは恐ろしいってことを、あの子に分からせてやるんだから!」
イラついた涌井さんが机上の湯飲みを鷲づかみし、グビグビと喉を鳴らして飲み干した。
誘い出し作戦には成功したものの、感情が先走って冷静さが保てない状況となってきた。
だが、無理もない。
ここは涌井さんの夢の中であり、何をやっても許される彼女の王国なのだ。思い通りにいかぬ事でフラストレーションが溜まっているに違いない。
「彼女の夢Pの内容についてですが、あれは間違いなく七界大戦です」
ミッキーは断言し、さらに語った。
「中高生に大人気の少女漫画ですが、恐らく物語から影響を受け、その設定やキャラクターになり切ってしまったのでしょう」
私にも経験はあるが、アクション映画を観た後など、自分が主人公のように強い男になった錯覚をしたものだ。
少女のそれはかなり強い妄想のようで、ミッキー曰く、
「重度の中二病患者」
とのことだ。
あの少女は、偶然にも私と同じタイミングでこの夢に紛れ込み、そこで見てしまったのだ。
夢世界を瞬時に構築する涌井さんの力。
光の鞭で華麗に戦うミッキーの姿。
そして、鏡に吸い込まれてリアルワールドへ帰還する私達を。
中二病の少女が、それを目の当たりにしたのだから大変だ。憧れていた漫画の世界に来たと思い込んだのであろう。
だが、あの少女はこう言っていた。
「眠るたびに、この異世界に来ていた」と。
ひょっとして、ここが夢の中の世界だと気づいているのかもしれない。
そう考えると、先ほどのバトルで時折見せていた彼女の笑みも理解できる。
きっと、七界大戦ごっこに付き合ってくれる人物が現れた、という喜びが溢れたものだろう。




