51 魔法名が思いつかない
更に悪役っぽいセリフを言おうと思ったのだが、なかなか出てこない。助けを求めようと背後のミッキーへ視線を送った。
「すごく良いです!まさしく七界大戦の雰囲気です」
キラキラした瞳で、ガッツポーズと共に答えるミッキー。
「魔法とか技の名前を唱えて、挑発攻撃をしてみてください」
「魔法?ひらけゴマとか、アブラカダブラとか?」
「いえ。あの、できれば、もうちょっと格好いい言葉で……」
ミッキーが苦笑している。
格好いい言葉……格好いい言葉……。
漫画やアニメでは、奥義の名前を言いながら魔法や技を繰り出して敵と戦っている。それ真似れば良いのだろうが、いざとなると何も思いつかなかった。
私があれこれ考えている間に、少女はバトンを構えて再びポーズを決めた。
「私は認めぬぞ!兄者を騙る不届き者め。成敗してくれる!」
ええい!こうなったら四文字熟語で行こう。
「奥義!抜刀・花鳥風月」
電光剣がそのセリフに反応し、ひときわ輝きを増した。
切っ先から空に向かって光が放射され、Vの字を描いて少女へ向かって急降下し、地面へ突き刺さった。
大爆発と共に土煙が舞い上がる。少女はうろたえ、二歩三歩と後退した。
「こ、この勝負は預ける」
走り去ろうとした彼女に向かって、私は叫んだ。
「フハハ!いつでも相手になってやる!待っているぞ」
一瞬動きを止めた少女は横目でチラリとこちらを見た。
その時、口元に薄く笑顔が浮かんでいる事に気づいた。まるでイタズラを楽しんでいる子供のような笑みだ。
彼女が立ち去ると、七界大戦の夢Pはまるで霧散するかのように消えた。
「素敵だったわ北村クン!なかなか良い演技するじゃん。どことなく、あの超有名なSF映画っぽかったけど」
からかうように言う涌井さんが、ケラケラと笑った。
「想像兵器は健在のようですね。北村さんのおかげで助かりました」
私の掌をくまなく眺めたミッキーが、安堵したように大きく息を吐き出した。
「我が弟子よ。フォースと共に生きるのじゃ」
涌井さんが老翁のような口調で言いながら私の肩をポンと叩く。
「いま、だれかのマネをしたんですか?」
ミッキーが不思議そうに首を傾げた。




