50 兄者と呼ばれる
ファンタジーを検索したにも関わらず、私の気持ちは、なぜか時代劇の悪役っぽい雰囲気に染まってきた。
恐らく、少女の希望は光系の勇者と、闇系の敵との戦いゴッコなのであろう。ここは夢Pの流れに抵抗せず悪役に徹しよう。
私は手のひらから電光剣を出現させ、涌井さんとミッキーを守るように立ちはだかった。
「心配無用だ。我に任せよ」
流し目で2人に言い、ニヒルな笑みを口の端に浮かべる。
「カッコいいじゃない北村君、頑張って!」
「北村さんステキです!その感じで演じてください」
美少女達からの声援を受け、私の気持ちは更に調子に乗ってきた。
電撃の一つが矢のように私を目掛けて来たので、居合抜きのように剣を振って撃ち落とした。
「私の攻撃を弾いただと!?」
少女が驚きの声を上げた。
土煙が漂う中、ユラリと立ちはだかった私は声のトーンを落とし、悪役っぽいセリフを叫んだ。
「我こそは暗黒魔王に仕える無慈悲な暗殺者なり!生意気な小娘め。八つ裂きにしてくれるわ!」
電光剣を構えてポーズを決めると、少女の表情がパッと明るくなり、目をキラキラと輝かせた。やはり、この子は魔法による戦闘ごっこを望んでいるのだ。
私は一気に踏み込んで彼女の間合いへ飛び込み電光剣を振り下ろした。バトンとぶつかり合い、バチバチという音と共に光が飛び散った。
「ほほう。我が一撃をよくぞ防いだ」
「闇の眷属からの賞賛など、いらぬっ!」
剣とバトンによる激しい攻防が展開され、周囲には電撃が走り、校庭の木々の何本かが衝撃で倒れた。
「こ、この無駄の無い洗練された太刀筋……お前は、本当に闇の眷族なのか?」
驚愕の表情でこちらを見つめる少女。私はフフッとニヒルに微笑み、適当なセリフをアドリブで言った。
「知りたいか?ならば教えてやろう。私は———いや、我ら3人も元は光の戦士だった」
「な……なに!?騙されぬぞ!」
バトンを剣のように両手で握り、何度も振り下ろしてくる少女。私の電光剣はその攻撃を難なく防ぎ、彼女を翻弄させた。
「小癪なっ!私の攻撃をいとも容易く防ぐとは」
徐々に疲労の色が見え始めた少女が高くジャンプして私から離れ、悔しそうにこちらを睨みつけた。
私はモデル立ちで悪役のポーズを決めながら、それっぽいセリフを言った。
「フハハハハ!お前も暗淵へ堕ちるのだ。この力は最強だぞ」
少女が何かに気がついたようにハッと顔を上げた。
「まさか、あなたは……あなたは生き別れとなった私の、あ、あ……」
そう。お前の父だ———と口から出かけた瞬間、瞳を潤ませた少女が言った。
「兄者なのですね?!」
兄?
年齢的に父親のような気がしないでもないが、今の私は高校生。少女にとって兄と言える容姿だろう。
「先の聖大戦で私を救うため、暗黒界へ囚われの犠牲となった兄者ですね?」
何を言っているのかさっぱり分からないが、彼女の思い描いているストーリーに合わせる必要がある。
「フッフッフ。その通り。やっと出会えたな妹よ」
「そんな……まさか。兄者がこんな形で帰ってくるなんて……」
苦悩の表情を浮かべる少女と、その姿を不敵な笑顔で見つめる私。
空には灰色の絵の具を溶いたような雲が立ち込め、我々の周囲には風が吹き荒ぶ。ショッキングな告白を受けた少女の心の内を表現する、素晴らしい演出だ。




