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49 闇の眷属

 私は少女の制服に見覚えがある事に気がついた。

「これって、確か狩谷高校の近くにある中学校だろう?」

 少女はハッと顔を上げ、慌てて背を向けた。その様子を見た涌井さんが勝ち誇ったようにニヤけた。

「なぁるほど〜。わざわざ学校のカーテンを頭から被ったのは、学校名が知られたらマズかったという訳か。制服を着ていたら即バレだもんね〜」

「わ、私は中学生ではない。光の天使だ!闇の眷族であるお前達と戦うために天より遣わされ、この世界へ来たのだ!」

 少女は私の手を振り払って走り、少し離れたところで踵を返し、私たちと対峙した。


「光の戦士として、我が魔法奥義でお前達を成敗してやる!」

 背中のホルダーからバトンを取り出してクルクルと回し、ポーズを決める少女。

 呆気にとられて見ている私達の目の前で、バトンが勢い良く輝き始め、イルミネーションのように派手な色へと変化していった。


 とても濃い夢Pが私達を襲う。

 今まで快晴だった空には暗雲が立ち込め、ひやりとした冷気に包まれた。

「他人の夢の中で、こんなに強い夢Pを展開させるなんて?!」

 驚愕するミッキー。

 その隣では涌井さんが腕組みをし、感心したように何度も頷いていた。

「へえ。こんな魔法が使えるなんて、あの子凄いわ」

「違うんです。あの子が涌井さんの夢を一時的に占領しているんです。この夢Pに翻弄されないように意識をしっかり保って下さい」

 ミッキーの言う通りだった。状況を理解する間も無く、少女の放つ強制演劇力がこの場を占領していく。


「大地の轟きよ。光の矢よ。光天使の名の下、今こそ発せよ!浄化光砲(パニッシュメント ライトニング)!!」

 少女の呪文詠唱が終わると、バトンから稲光が発せられた。


 衝撃で七輪や食材が四散し、我々も芝生へ投げ出されてしまった。

「イタタ……何てことするのよ!まだ食べている途中だったのに!」

 涌井さんが少女へ向かって怒鳴り、両手をサッと前方へ向ける。

 すると手のひらからバレーボール大の光球が飛び出し、ツインテール少女へ向かって勢い良く飛んでいった。

 だが、それは輝くバトンによって簡単に弾き返されてしまった。


「ついに正体を表したな、闇の眷族め!普通の人間が手から光球など出さぬ」

「お黙り!天使だか眷族だか何だか良くわからないけど、食べ物を粗末にするのは許さないわ!」

 怒った涌井さんが腕まくりしてツカツカと少女へ向かおうとして、ミッキーに止められていた。

「待ってください!あの娘が詠唱した呪文は、七界大戦に登場する上位雷系魔法の名前です。きっと何か事情があるはずです。だから、ここは……」

「せっかくの焼肉を、七界大戦なんてアニメで台無しにされちゃうなんて」

「先ほども説明した通り、それは流行している漫画のタイトルで……」

「え?アニメじゃなかったっけ?」

「漫画です」

 噛み合わない話し合いをする涌井さんとミッキーの向こうで、少女は再びバトンを構えた。

「光の盟約に従い、我、闘いの刃を捧げる。聖粋剣神(ホーリー ケムヒト)降臨!」

 バトンの先から、空へ向かって青い光が勢いよく伸びた。


 ミッキーが光の鞭を両手から出して高速で回し、ドーム状のバリアを作った。

 空から矢のような閃光がいくつも降り注ぎ、バリアへ激突する。衝撃で校舎のガラス窓が何枚か割れ、周囲には土煙が立ち込めた。


 ミッキーが私に向かって叫んだ。

「北村さん、お願いします!あの子の発する夢Pに付き合ってあげてください!この場を収めるにはそれしかありません」


『夢Pの波に乗って演技しながらも、心は捉われず、冷静に状況を判断する』

 私が先の経験で学んだ事だ。

 夢とは人の欲求の現れでもあるというのならば、それを解消する事が最も早く効率的にこの状況を収める近道である。

 あの少女の発した強制演劇力はファンタジー的な戦闘を望んでいるのだ。彼女の希望に沿った演技をするために、私は記憶の中の『ファンタジー』や『歌劇』を大急ぎで検索した。

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