4 学校のマドンナ
どこか見覚えのある娘だ、と、私は茂みの陰から身を乗り出した。その時、運悪く足元の小枝を踏みつけ、音が彼らの耳に届いてしまった。
「何者だ!?」
王様と魔女がマントを翻し、剣と杖をこちらへ向かって構えた。
私は両手を上げてヨロヨロと後退した。
鋭く睨みつける王様と魔女。だがその一方で、女子生徒は口をポカリと開けたままこちらを見ている。
やがて彼女は王様を押し除けるように私の目前まで駆け寄ってきた。
大きな瞳と高い鼻筋。セミロングのふわりとしたロッド巻きヘア。女子高生離れの整ったプロポーション。
私はこの美少女の事を知っているぞ。
彼女は学校のマドンナ。名前は……
「涌井さん?涌井紀香さん?」
確認するようゆっくり尋ねる。すると、彼女は顔をクシャクシャにして泣き笑いの表情を見せた。
「ウッソ!?本当に?信じられないわ。ついに本物の北村君が来てくれたのね。でも、どうして?」
こぼれる涙を袖で拭うと、今度は満面の笑みを浮かべながら私の両手を取った。
「嬉しい……最高だわ!」
私は混乱した。なぜ、女子高生の涌井さんが死後の世界にいるのだ?
惚けている私に構わず、17年ぶりのクラスメイトとの再会に彼女は興奮し、握った手をブンブンと上下に振った。
そんな涌井さんをやや乱暴に退かした王様と魔女が我々の間へ入り込んだ。
「見知らぬ者へ近づいてはならん!」
「その通りじゃ!この呪いの森では、魔物が人の姿に化けて寄って来ます!」
喜びを邪魔された涌井さんはムッとした表情になり、2人へ言った。
「この人は私の同級生です。魔物ではありません」
「なに、同級生だと?本当か?!」
王様は、剣の切先をこちらに鋭く向けた。
私は返答に困った。どうしようかと迷い、とりあえず自己紹介をすることにした。