47 焼肉パーティ
「ちょっと待っててね!」
翌朝、そう言って意気揚々と合宿所から出かけて行った涌井さんだったが、10分もしないうちに深刻な様子で戻ってきた。
「なんだか、夢Pの調子が変だわ。せっかくアンタ達が来てくれたんだから、グランドに遊園地でも出そうと思ったんだけど、うまくいかないのよ」
そう言って、への字に口を曲げながら「えいっ、えいっ」と何度も指パッチンをする涌井さん。
私とミッキーは顔を見合わせた。
「これは、変だね」
「ええ。明らかに何かがおかしいです」
ここは彼女の夢世界なので、念じたものが出現し、場面転換が行われるはずなのだ。
我々は涌井さんを校庭に連れ出し、改めて夢Pの発動を試してもらった。
気を付けの姿勢で立った涌井さんが、仏像のように合掌して念じる。
「どうですか?」
ミッキーが心配そうに彼女の手元や顔を覗き込む。
「うーん……ダメ。やっぱり、うまくいない」
涌井さんはへたり込んだ。
「例の魔道士が何らかの方法で妨害をしているのかしら……昨日のカミナリといい、鏡を破壊する行為といい、明らかに私たちへ敵意を向けています。こうしている間にも再び攻撃を受けたら大変です」
ミッキーが心配そうに周囲をキョロキョロと見回した。
「提案がある」
と、私は手を上げた。
「犯人が分身であろうと第三者であろうと、向こうは僕らの様子を伺っている。だから、こちらへ近付くように仕掛ければいいんだよ」
「なるほど。おびき出し作戦ですね」
「で、何をすればいいのかしら?」
「焼肉パーティをしよう」
涌井さんとミッキーは、不思議そうに何度も瞬きをした。
「この世界では合宿所にしかライフラインが存在しない。つまり食材を入手できても調理ができず空腹状態のはずだ。そんなとき焼肉のいい匂いが漂ってきたら?」
「お腹に堪えますね」
「私なら我慢できないわ」
「それともう一つ。僕達が『まるで気にせず、パーティーを楽しんでいる』という素振りを見せたら?」
「犯人は動揺するわね」
「いいですね。やりましょう」
物置小屋に学校イベント用の七輪と木炭があり、食堂の冷蔵庫には十分な量の食材もある。準備はすぐに整った。
校庭で七輪を囲んだ我々は、冷えたコーラで乾杯して焼肉パーティを始めた。
しばらく経ったころ、涌井さんが私の背後を指差した。
振り返ると、生垣の隙間から白く細い手が伸びていた。
それは私の皿からウィンナーをつまみ上げ、生垣の中へと引っ込んでいき、しばらくすると今度は私の飲みかけの缶コーラを握った。
そのタイミングで手首を掴み、グイと引っ張り出した。
「キャッ!」
悲鳴と共に生垣から出てきたのは、白魔道士の人物だった。
よく見ると、学校のカーテンを頭からスッポリと被って身体に巻き付けているだけだ。涌井さんが「えいっ」とそれを奪い取った。




