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44 分身疑惑

「あーあ。メチャクチャだわ~」

 涌井さんがゲンナリした様子で周囲を見渡した。

 校舎へ戻った我々が目にしたのは、竜巻に荒らされた惨憺たる光景だった。殆どの窓ガラスが破れ、椅子や机がひっくり返っている。

「実は、3日くらい前から雷とか竜巻、ポルターガイストみたいな事が頻繁に起こるようになったのよ。で、おかしいと思って、パトロールを強化していると現れたのよ。あの白魔道士が」

「3日前というと……眠り病の発生と重なっています」

 ミッキーがメモ帳を取り出してパラパラとめくる。

「市立病院を中心に、再び睡眠障害や意識混濁する人が続出しています。症状自体は軽いのですが人数が多いのです」

 居酒屋で同僚から聞いた例の事案だ。


「ダイブして涌井さんと会うなり、謎の魔道士から攻撃を受けました。恐らく、あの人物が夢世界のバランスを乱している原因だと考えます」

「僕らと同じように外部から入り込んだ者だろうか?」

「そうかもしれませんが、通常、夢世界に紛れ込んだ一般人は、ホストの許可なくあのような魔法も想像兵器も使えないんです」

「じゃあ、涌井さん自身……とか?」

 私の言葉に、彼女達は同時に「え?」と言った。


「涌井さんは前回のように夢が暴走しないよう我慢しているだろう?だから、欲求不満が具現化した分身かもしれないよ」

「ちょっと。変なこと言わないでよ。別に我慢なんてへっちゃらよ。そりゃまあ、アンタ達に会いたいなあとは軽く思っていたけど、欲求不満とまでは……」

 語尾が尻すぼみになり、急にゴニョゴニョと言いにくそうに呟いた。

「……えっと、正直言うと、夢Pをちゃんとコントロールできているかっていうと自信は無いのよね。アタシってば調子に乗っちゃうタイプだし」

 頭を掻きながらテヘへと舌を出す。


「涌井さんの分身……ありえますね」

 そう言ったミッキーが、教師のように人差し指を立てた。

「夢は『無意識の現れである』という説があります。つまり、欲望を満たしたいという願望が夢という形になって現れているのです。ですから、欲求不満という名の分身が暴れるという可能性も無いとは言えません」


 涌井さんが笑顔で手をポンと叩いた。

「じゃあ、やっぱり発散するために、どんどん映画ごっこした方がいいんじゃないかしら?」

「それは、ちょっと困ります」

「どうして?」

「涌井さんの夢の力は超強力なので周囲へ与える影響が大きいのです。なので、映画ごっこよりも力を抑える方法を学んでいただければ、と……」

「うーん。それができれば苦労しないのよ」

 涌井さんが苦笑しながら頭をかいた。

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