42 夢世界へ、再び
整然と並んだ机と椅子、そして黒板がある。
開け放たれた窓からは青い空と白い雲、古びた体育館の壁、そして陽に焼けたグラウンドが見えた。
私は高校の教室にいる。
そう。
再び涌井さんの夢へ入り込むことに成功したのだ。
目標は達成できたので、素直に喜ぶべきだろうが、気持ちは少し重かった。
今回は自分の不注意で転んだので、皆に迷惑をかけた事は確実だ。リアルワールドへ帰還した後に何と言って詫びようかと考えると、とても恥ずかしくなる。
ともあれ、せっかくここまで来たのだ。早く涌井さんを探し出し、夢暴走を抑えるよう説得しなければ。
席を立とうとした時、屋外からドカンと派手な音が聞こえ、思わず首をすくめた。
建物がビリビリと震え、数枚のガラス窓が割れる。
その音に砲撃を連想し、涌井さんは戦争映画の夢Pでも展開しているのだろうか、と恐る恐る窓から顔を出した。
校庭の太い木が縦に割れ、煙を上げながら燻っている。地面にはいくつものクレーターのような穴があった。
再び空気を揺らすドンという音が響くと閃光が走り、土が舞い上がってクレーターが1つ増えた。
私は廊下を走り、急いで校庭へ向かった。激しい轟音と振動は続いており、その度に校舎が震えた。
生徒玄関から外へ出た私が見たものは、制服姿の涌井さんとミッキーの背中だった。声をかけようとしたが、彼女達が誰かと対峙していることに気づき、そちらへ視線を向けた。
その人物は頭からすっぽりと白布を被っており、手にはバトンを持っていた。
「ちょっとアンタ、誰なのよ?!」
「危険です!落ち着いて下さい涌井さん!」
立ち向かっていこうとする涌井さんを、ミッキーが必死に止めようとしている。
白布の人物が呪文を唱え、バトンを頭上へ掲げた。空には真っ黒な積乱雲が渦を巻き、吹き荒れる風が竜巻へと巨大化していった。
駐輪場の屋根が吹き飛び、何台もの自転車が舞い上がって彼女達へ襲いかかる。
「危ない!」
ダッシュした私は2人を両脇に抱きかかえ、校庭の大木の陰へ飛び込むように隠れた。
太い幹がギシギシと音を立てて揺れ、砂埃が立ちこめる。
しばらく強風の中で耐えていると、竜巻は徐々に消滅していった。
大樹の陰から顔を出し、謎の白い人物を探したが、どこにもいない。
竜巻と共に去って行ったのだ。




