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33 惹かれ合う二人

 ミッキーがパチリと瞳を開け、私と目が合った。

「……北村さん?」

「やあ。気がついたんだね」

「よかった。無事だったんですね」

 上半身を起こした彼女が辺りを見渡す。

「ここは?」

「南の島のようだね。僕もさっき目覚めたばかりだから、詳しい事はわからないんだ」

「そうですか。でも、本当に無事で良かっ……」

 言いかけたその視線が自分の体に移動する。そして次に私の顔を見た。


「ひゃあぁ!」

 悲鳴を上げながら慌てて胸元を隠す。

「み、見ないでくださいっ!あっちを向いて!」

 私は言われた通り、くるりと彼女に背を向けた。

「北村さんが、私を着替えさせたんですか?」

「気が付いたら2人ともこの格好で浜辺に寝ていたんだ」

「では、涌井さんが?何のために……」

 急にミッキーが無言になった。


 背中に彼女の手の感触が伝わり、ジリリと火傷に似たような痛みが走る。思わず、痛ててと言いながら仰け反ってしまった。

「ここに手のひら大の、やけどがあります……例の光球が接触した痕です」

 ミッキーが泣きそうな顔で私を見つめ、そして頭を下げた。

「この傷は北村さんが目覚めた後、リアルワールドへ戻った後も残ります。私のせいです。本当にごめんなさい」

「確か、夢の中で怪我したら現実の世界にも影響するんだったっけ?」

「そうです。脳が認識したものは実現されるんです」

「じゃあ、君はすごく危ない戦い方をしたんじゃないか?怪我はないの?」

「実は私、バリアが得意なんです。派手に飛ばされましたが、ほとんどダメージはうけていません」

 と、薄く笑う。

「私が北村さんにもバリアをかけておけば問題なかったのに……」

「このくらいの傷は平気さ。涌井さんを見つけ出して、彼女に詫びを入れてもらうよ」

「ですが、協力を依頼したのは私の方ですから……」

 私は彼女の肩に手を置き「大丈夫だよ」と微笑んだ。

「自分の背中なんてどうせ見えないんだから、気にしようがないのさ」

 ミッキーが安堵したような笑顔を見せた。


 波の音が響く。

 風は温く心地よい。

 さっきより少し日が落ちたようで、夜に向かって1段階ほど暗くなった。

「あの。1つ気になることがあるんです」

 ミッキーが尋ねてきた。

「涌井さんが『楽しいことをしよう』って何度も言っていましたが、実際、北村さんは楽しいんですか?」

「うん。楽しい」

 私は即答した。

「実は、会社の人間関係で悩んでいたんだ。真面目すぎる自分の性格も嫌で、これからの生き方について迷っていた。そんな時に涌井さんの夢Pに入り込んだ。高校生に戻ったり、手から電光剣が出たりサメ映画の悪役になったり……こんな非日常を経験するなんて、とても刺激的でワクワクするよ」


「私が過去に担当した案件でも、同じ事を言っている人がいました。夢だから何でも出来る、悩みも苦しみも無いこの世界で生きたいって」

「多くの人達が同じ悩みを抱えている。君も大人になれば……」

 言いかけて慌てて口を噤んだ。

 ミッキーはすまなさそうに目を伏せ、頭を下げた。

「ごめんなさい、無神経な質問をして」

「あ、いや……誤るのは僕の方だ。つい愚痴やら説教っぽい事を言ってしまった。でも、正直に話したら少しスッキリしたよ。ありがとう」


 彼女は少し照れながら、ジッと私の顔を見た。

「えっと。何か変なこと言ったかな?」

「……いえ。北村さんは、高校生なのに何だか大人っぽいなと思って」

 私は思わず吹き出してしまった。

「僕の中身は中年のオジサンだって言っただろう?」

「そうでしたね。何だか混乱します」

 彼女も笑った。

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