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30 戦闘実況中継1

 呆気にとられている私に向かって、涌井さんがビシッと指をさす。

「さあ、北村くん!戦いごっこを始めるわ。あなたは実況アナウンサーよ。楽しんでね!」

 強制演劇力が発動し、いつの間にか目の前にはパイプ椅子と長机、そしてヘッドセットが置かれていた。

 夢Pに支配された私の心はプロレス中継のアナウンサーへと変わり、話さなければならないという使命感に燃え、急いでそれを頭に装着した。


「さあ、会場にゴングの音が鳴り響きました。この最終決戦、どちらの頭上に軍配が上がるのでしょうか!」

 マシンガンのように言葉が口を突いて出る。

 会場の熱い戦いの雰囲気と、闘志に燃える2人の様子を視聴者の皆さんへ伝えなければならないのだ。

「先制攻撃を仕掛けたのはメデューサ涌井の方から。彼女の手から放たれたエネルギー光球がミッキー・ザ・ミッキーの身体を弾き飛ばした」


 倒されたミッキーであったが、それをものともせず勢いよく立ち上り、そして静かに涌井さんを見つめながら、制服についたホコリを手で払った。

「仕方がありません。では、私も少々荒っぽいやり方をさせていただきます」

 右手を構えると、そこから光の鞭がまるで植物の蔓のように勢い良く飛び出してきた。

「おーっと、颯爽と立ち上がったミッキー・ザ・ミッキーの手から光の鞭がしなやかに伸びてきた!」 

 彼女はそれをブンブンと振り回し、まるで拳法家のように構えた。


「フッフッフッ。そう来なくっちゃ」

 涌井さんが両脚を大きく広げ、サッと両手を前に突き出した。すると左右の掌からマシンガンのように光球が発射された。

 ミッキーはそれを華麗な鞭さばきで弾き飛ばす。

「何という戦いだ~!もはや人間の域を超えた神々の戦闘、アルマゲドンのようです」

 弾かれた球があちこちにぶつかり、駅舎の壁が破壊され地面には無数の穴が空いた。

「なかなかやるじゃない!」

 涌井さんが叫ぶ。

「もう終わりにしましょう。涌井さん」

 ミッキーが鞭を床へ振り下ろすと、バチリと音を立てて蛇のように床を這った。そして涌井さんの左手に巻き付き、電気のような音と共に光が走った。

「キャッアア!」

 悲鳴をあげ、感電したように体を硬直させた涌井さんがバタリと倒れた。


「出たー!ここ一番の大技、ミッキー・ザ・ミッキーのスピードライトニングショック!さすが東洋の怒れる女神!人畜無害を思わせる儚げな少女の仮面の下には阿修羅が潜んでいるのか?!」

 ミッキーの光の鞭がスルリと手の中へ縮まった。

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