29 この世界のこと、好き?
「この世界の出来事を『好き、楽しい』って言うと、洗脳しやすくなるの。北村君は電光剣をすごく気に入ってくれたんでしょう?だから、夢世界の住人に決定よ!これからもっと楽しいモノを見せてあげるわ」
涌井さんの無邪気な笑いに怯えつつも、ミッキーは果敢に立ち向かった。
「そう言う訳にはいかないんです。北村さんは巻き込まれた一般市民なので……」
「もう、シツコイわね!」
涌井さんが怒鳴ると、変化途中の駅前の風景が一斉に動きを止めた。ギョッとしたミッキーが辺りを見回す。
それは不気味な光景だった。まるでSF映画かゲームのワンシーンのように、ポリゴンが裏返る一瞬の状態で静止しているのだ。
「帰らないのなら、この世界に取り込むわよ。私が呼んだミッキーっていうあだ名を気に入ってくれたんでしょう?その僅かな心の隙間から少しずつ入り込んで染めていくの。ヒデや塩原へやったようにね……」
涌井さんがふざけたように人差し指をミッキーへ向け、クルクルと回した。
「そ、そんな脅しには屈しません!」
ミッキーが負けじとグイと前へ出る。
「この夢を終わりにしてください。拒否するならば、実力行使へ切り替える事になります」
それを聞いた涌井さんは「実力行使?!」と裏返った声を出しながら、驚いたように何度も瞬いた。
「へえ。面白いわね。できるものなら、やってごらんなさいよ」
低い声で凄みながらニヤリと笑い、そして、おもむろに右手をスッと上げた。
手のひらが光り始め、ソフトボール大の光球がポコッと浮き出てきた。携帯の振動によく似た音が聞こえる。
「それはっ……!?」
ミッキーが身構えようとした刹那、涌井さんがピッチャーのように振りかぶって光球を投げた。
「キャッ!!」
避ける間もなくミッキーに命中。悲鳴と共に彼女は吹き飛ばされた。
「ヒャッフー!た〜のし~!」
涌井さんがガッツポーズした。




