2 ここは地獄?
校内を歩いた。
懐かしいな。
3年間ここへ通って学び、剣道部で汗を流し、クラスの友人と映画や海外ドラマの話題で盛り上がっていたな。
大人になって記憶は薄れてしまったが、こうして改めて細部を見せられると、その頃の思い出が湧き上がってくる。
だが、そんな旧懐の気持ちも様々な教室を見て回る頃には消えていた。なぜなら自分の足音以外は物音ひとつ聞こえず、どこにも人の姿が見えないからだ。
神様のご褒美とはいえ、私1人だけが若返った世界というのは寂しすぎる。
スマホは持っていない。小銭の持ち合わせもないので、学食前の公衆電話は使えない。
不安な気持ちを抱えながら生徒玄関から外へ出た。
校庭を歩き、校門へ向かうと不思議なものが見えてきた。
本来なら学校を取り巻くように住宅街がある筈なのだが、そこには鬱蒼とした森が広がっていたのだ。
なぜここにジャングルが?と、思ったのだが、よく見ると荒廃した住宅街と商店街が草木に飲み込まれていた。
狩谷高校の校舎は綺麗なままだ。そのギャップに息を飲み、目の前に広がる非日常的で不条理な光景を前に、呆然と立ち尽くしてしまった。
アスファルト道路のひび割れから大きなシダ植物が生え、錆びた自動販売機には蔦が絡まっている。
この荒廃した様子に『地獄』という言葉が脳裏にちらつき始めた。上司を殴ったのがそんなに悪いことだったのか。
商店街をまっすぐ行けば駅に辿り着くのだが、このジャングルを掻き分けてまで歩く勇気が湧かず、校舎内へ戻る事にした。
太陽の傾き具合を見ると、そろそろ夕方になる。体育館裏に合宿所があった事を思い出し、今夜はそこへ泊まろうと思った。古い建物だがベッドも厨房もある。誰もいない学校は不気味だが、野宿するよりはマシだ。
ふと、何か聞こえたような気がして、近くの生垣の陰へ身を隠した。
耳をすましながら周囲の様子を探ると、近くの小さな公園で誰かが話し合っている姿が見えた。