28 映画ごっこを、楽しまない?
何もなかったかのように強制演劇力は消え、私はチャラ男から解放された。
深刻な表情の三木さんが、私の顔を覗き込んだ。
「大丈夫ですか?もう、元の北村さんに戻りましたか?」
「ああ。急にチャラ男の演技を始めてすまなかった。びっくりしただろう?」
しばらく私を見つめていた三木さんだったが、安心したように胸に手を当てると深呼吸をした。
「もう限界です。このようなホラー演出や、急な場面転換が続くと、我々の精神が保ちません。北村さんはここで待機していてください。何とか涌井さんを探し出して説得します」
「僕なら大丈夫だよ。夢Pにノリながらも冷静な状況判断はできている。それに涌井さんは同級生だし、彼女の夢の内容は僕達が書いたものだ。一緒に説得するよ」
「でも、危険が伴う場合がありますから……」
「ここまで来たんだ。最後まで助け合おうじゃないか」
そう言うと、頬を赤らめ照れ臭そうに目を伏せた。
「ありがとうございます」
そして、急にモジモジし始めた。
「あの、もし良かったら、涌井さんのようにミッキーって呼んでいただけませんか?あだ名で呼ばれたこと無いから、すごく新鮮で何だか勇気が出ます」
「分かった。じゃあ、これからはミッキーと呼ぶよ」
彼女は更に顔を赤らめてニッコリ笑った。
「へえ、そうなの」
背後から突然声が聞こえた。
振り返ると、教室の入り口に涌井さんが笑顔で立っていた。
「ミッキーというあだ名が気に入ったのね。いいこと聞いちゃったわ」
彼女が指をパチンと鳴らすと、教室が変化し始めた。
いや、変化という生易しいものではない。
周囲の机や椅子も板ポリゴンが反転するようにバタバタと風景の一部へと変わっていくのだ。その異様な光景に、ミッキーが息を飲んで私にしがみついた。
そして、たちまち狩谷駅前の風景が現れた。
電車通学の者にとってはお馴染みの駅。
アーケード街や商店街がある下町感あふれる場所だ。私も高校3年間、ここを歩いて学校へ通った。よく見ると、馴染みの喫茶店や定食屋もある。
涌井さんがドヤ顔で私にVサインを出した。
「どう?懐かしいでしょ。私ってば、こんなことだって出来ちゃうのよ。良かったら店の中に入ってみる?忠実に再現しているわよ」
すると、今度はミッキーに向かってニヤリと不敵に微笑んだ。
「私の作り出す世界は怖いでしょう?これに懲りたら北村くんを置いて帰りなさい。ヒデと塩原は脇役要員としてここに残しておくわ」
ミッキーが両手を握りしめて一歩前に出た。
「あなたの夢世界の力は強すぎます。このままでは、多くの人々に体調不良の被害が出ます。どうか力を抑えてください」
「嫌よ。だって北村君が来てくれるなんて奇跡ですもの。一緒にこの夢世界を作るの。あのアイデアノートに書かれていたものが現実になるなんて素敵だと思わない?」
涌井さんが両手を広げ、その場でクルリと回った。




