21 捜査協力
「夢Pなんて名前があるとは知らず、強制演劇力と呼んでいたよ。無理やり演技させられて最初は混乱したけど、今では楽しむ余裕が出てきた」
私は頭をかきながら苦笑した。
「私が北村さんを調査員だと誤解した最大の理由の一つは、それなんです」
三木さんがやや興奮気味に言った。
「あなたは夢世界に対する順応力が高く、夢Pの只中にいながら冷静に状況を判断できるという、特殊能力を持っているようです。夢Pの波に乗り、やり過ごしているんです」
「買いかぶりすぎだよ。強制的に演じさせられているけど、妙に楽しくてね。その理由がさっき分かった」
「それは一体……?」
「このファンタジー世界は、僕と仲間達が高校時代に考えた脚本にそっくりなんだ」
「脚本……夢Pに脚本があるんですか!?」
「配役は違うけど、内容はかなり似ているんだ」
三木さんが目を丸くした。
あれは高校2年生の頃だ。
放課後に映画好きの仲間達が集まり、色々なアイデアを出し合った。その中の1つを実際に映画化しようと、脚本を書く手前まで進めた事もある。
『あたし、魔王役がいい!派手な魔法をガーッて使ってみたい』
お姫様役を涌井さんに依頼したのだが、逆に悪役を希望されたっけ。
その後、インフルエンザが大流行して学校が5日間も閉鎖され、企画は自然消滅してしまったのだ。
「そう。涌井さんはノートの中身を知っている。あの時、コピーを渡したんだ」
「つまり彼女がホスト……」
「うん。間違いない。映画の企画を、この夢世界で展開しているんだ」
俯いた三木さんはそのまま何かを考えていた。だが、ふと顔を上げると私を真っ直ぐに見て言った。
「北村さんに事案解決の協力をお願いします。ここはあなたの出身校であり、夢Pの内容も知っています。なにより涌井さんの同級生でもあります。彼女の説得に力を貸してください」
胸の前で両手を握り、祈るような姿の美少女が、期待の眼差しで私を見つめている。
機関の同僚2名が夢世界に囚われているという異常事態。三木さんが訓練された工作員とはいえ、この状況では不安だし心細いだろう。
「分かった。協力しよう。何でも言ってくれ」
「ありがとうございます」
パッと笑顔になる。
先程までの冷たい表情とは打って変わって、実に可愛らしい表情だ。見ているこちらがホッコリする。この子はおじさんキラーだ。今の私はきっと鼻の下を伸ばしているに違いない。




