20 この世界の秘密
リアルな夢やおぼろげな夢、その内容は突拍子もなかったり、ときにはエッチなものを見ることもある。
脳は寝ている間に記憶を整理しており、その作業が夢というビジュアルになって現れているのだ。
ところが世の中には夢を見る際に、ある種のテレパシー能力を発揮させる人がいるらしい。それは500人に1人という高い割合で存在し、他者の意識を自分の夢へ引き摺り込んだり、時には夢を暴走させて、周辺の人々に意識障害を与える場合がある。私の遭遇している状況がそれなのだ、と三木さんは語った。
「今回の夢暴走の中心地は市立病院。私はその一室で専用の機器の力を借りて夢へダイブしています」
「ここは異世界とか死後の世界じゃないのかい?」
「北村さんのお話を聞く限りでは、怪我をして入院なさっているのでは?」
なるほど、そうか。
私は死んだ訳ではなく、交通事故で昏倒し、意識だけがこの夢の中へ入り込んでいるのだ。
「夢暴走は周囲の人々へ精神汚染の影響を与えるので、我々調査員が夢主の意識へダイブし、解決策を試みるのです」
彼女はそこまで話すと、フウとため息をついた。
「ですが、最近では夢の力を政治利用しようとする某国や、商用利用しようとする某社が出現し始めました。なので、すっかり疑心暗鬼になり北村さんを疑ってしまったのです」
「夢をそんなことに利用できるのか……」
「ええ。彼らは我々より先に現場へ乗り込み、ホストを利用しようと企むのです」
三木さんはふと周囲を眺めた。
「この夢はパワーが桁外れです。今までとは次元が違うといっても過言ではありません」
「どういうこと?」
「まず夢世界の完成度が高いのです。学校の内部、ジャングルに覆われた街並み。これだけクオリティの高いモノを作り出せるということは、それだけイマジネーション力が強いということです」
確かに、夢の中だとは信じられないような光景が目の前に広がっている。触れることもできるし、時間の経過もある。
「実は、私より先に出動した塩原主任とヒデさんがいつまで経っても帰ってこないので、私が応援に駆けつけたのです」
「彼らは、君と同じ組織のメンバーなの?!」
ハマり役だったので、すっかりファンタジー世界の住人だと思っていた。
「ええ。あの2人は私のことをすっかり忘れていました。記憶を失うほどこの夢世界に没入しているのです」
先ほど、三木さんが必死に彼らへ訴えかけていたが、正気に戻る事はなかった。それほどこの夢の影響が強いのだ。




