1 高校生へと戻る
どのくらい時間が経ったのだろうか。ふと目が覚めた。
気がつくと私はイスに腰掛け、机に突っ伏したまま寝ていた。
うっすらと開けた瞼に、窓から差し込む明るい日差しが飛び込んできた。風に揺れる白いカーテンが見えたので、真っ先に病院を連想した。
ああ、なるほど入院か。ひどい交通事故に巻き込まれてしまったが、何とか死なずに済んだらしい。
「よっこいせっ」
いつもの口癖と共に立ち上がる。座っていた椅子がギギッと鳴った。
おや?妙に体が軽い。腹の贅肉の重たさも背骨の軋みもない。
待てよ?
そもそも私は患者なのだからベッドで寝ていなくてはならないのに、なぜ椅子に腰掛けているのだ?
周囲を見た。
整然と並べられた机や椅子、黒板に教卓、窓から吹き込んでくる緩やかな風が、白いカーテンを揺らしている。
思い出した。
ここは私が通った狩谷高校の教室だ。なぜこんな所へいるのだ、と眼下の机を触ろうとした時、自分の腕が視界へ入った。
これは学生服だ。
なぜこれを着ているのだ?
慌てて身体中を触り、手や足、尻や背中まで確認した。
高校生に戻っている!
信じられない。
緊張と興奮で顎がガタガタと震える。
どこかに鏡があったはずだと廊下へ出た。そのまま水飲み場へ走り、鏡を覗き込んだ。
若々しくスリムな青年となった自分の姿が写っている。
なぜ若返ったのだ?
……ああ、そうか。
ここはあの世だ。
きっと私は事故で命を失い、死後の世界へ来てしまったのだ。
このような形で35年の短い生涯を終えるとは思ってもいなかった。
この若返りは、きっと神様がこんな不甲斐ない私へせめてもの憐れみにと、最後にくれたご褒美なのだろう。
そう考えることにした。