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18 夢P

 戦闘が終わった。

 電光剣を手に収めた私は、大きくフウと息を吐いた。

 アクションヒーローがザコ敵をバタバタと倒していくシーンでは、絶対に負けることはないという安心と爽快感を観客が楽しむ。強制演劇力に支配された私は、ヒーローと観客を同時に体験しているような感覚を味わっていた。


「……すごい」

 小声で呟く三木さんの声が背後から聞こえた。振り返って目が合うと、彼女はビクリと体をこわばらせた。

「怪我は無い?」

 そう尋ねると、彼女は無表情で私の腕を指さした。

「私は平気ですが、あなたが怪我をされています」

 見ると、左肩付近に引っかかれたような傷があり、わずかに出血していた。

「すぐに保健室で治療しましょう」

「このくらい、かすり傷だよ」

「いいえ。行きましょう」

 有無を言わさぬ口調と、真っ直ぐにこちらを見つめる真剣な眼差しに、私は戸惑いつつ彼女と共に保健室へ向かった。


 理由は良く分からないが、三木さんはこちらを警戒するように離れて歩いている。気まずさを感じたので話しかけてみる事にした。

「ところで君は、あの雰囲気を———強制的な演劇力を感じなかった?」

「雰囲気……何のことですか?」

「ほら。急にその場に合った演技をしたくなる空気というか……」

「ああ、それは夢Pです」

 彼女は冷たく答えた後、なぜか横目でチラリと私を睨み、スタスタと先に歩いて行ってしまった。

 夢P?

 Pって何だ?

 私は先行く彼女の背中をぼんやりと見つめながら、その言葉を頭の中で反芻していた。


 夢か。

 高校時代は友達と将来の夢について語ったものだ。

 ある者は建築家、またある者は医療従事者など、具体的な夢を持っている友人が多かったので、とても感心した事がある。

 私は映画関係者になりたいと宣言し、ノートに記したネタを映画化してみたいのだ、と周囲へ真剣に語っていた。 若かったなあ。


 ノート?

 そういえば、今のこの状況は、あのアイデアノートに書かれていたファンタジー映画の設定にそっくりだ。

 呪いの森に覆われた町や学校。プライドは高いが実力の伴っていないスケコマシの王様と、モンスターの知識は豊富だがビビリな黒魔術師。そして毒舌だが美しい女官。

 一行は魔王のいる暗黒城へ向かおうとするのだが、準備不足が発覚して資材調達のため学校へ行くのだが、モンスター達に妨害されてなかなか出発できず、時間だけが経過していく。

 その間に別の勇者達が魔王を倒して町に平和が訪れるのだが、それに気がつかない一行は、学内でドタバタを繰り返している。

 そのストーリーにそっくりじゃないか。

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