17 ゴブリンとの戦闘
何か揉め事だろうかと、呼び掛けた。
「君達どうしたんだい?」
近づく私を警戒するように、三木さんは魔女の背後に隠れ、不審な表情でこちらを見た。
王様ヒデがクッフッフと嫌な笑い方をしながら私の顔を覗き込んだ。
「北村殿こそどうした?校内を探索していたはずだろう?さては涌井にエッチな事をしようとして逃げられてしまったのか?」
すると、すかさず魔女がツッコミを入れた。
「どこかのスケベおやじと違って、北村殿はそんな事はせぬじゃろう?」
「な、何だと?!ぐぬぬ、言わせておけば」
地団駄を踏む王様の姿に、私と魔女は笑った。
ふと、視界の端で何かが動いたような気がした。廊下の奥を見ると誰かが柱から顔を覗かせてチラチラとこちらを見ている。
そして急に顔を引っ込め、続いてパチンと指を鳴らす音が聞こえた。
その途端、強制演劇力が周囲に漂い始めた。何かを演じたくなって堪らなくなる例の不思議な現象だ。ゾワゾワとした感覚が背中を走り、首のあたりの産毛が逆立つ。
王様が辺りを警戒しながら腰の剣を抜いた。
「むむっ。何やら不穏な気配を感じるぞ。聖女殿は私の背後に隠れよ」
それを見た魔女が、再びツッコミを入れた。
「若い女性の前では格好付けるという、スケコマシが見事に発揮されておるの」
「ぶ、無礼な!剣士として弱き者を守るのは当たり前……」
そう言いかけた王様の目が、廊下の先を凝視した。
「何かいるぞ!」
彼が指差した先には、子供のような背丈のモンスター達が、教室のドアや窓から顔を覗かせていた。大きな丸い目と深緑色の肌。ぼろ布のような服を身にまとい、手には棍棒や斧を持っている。
魔女の早口解説が始まった。
「あれはゴブリン!ジャングルに生息する妖精の一種だが、こいつらは瘴気によって魔進化しており、見境なく人間を襲ってくるぞ。一個体の戦闘力は低く防御力もゴミだが、素早さが特徴で、集団で殴りかかって来るのが厄介じゃ!」
ガタガタと震え、恐れ慄く王様と魔女。
だが、逆に私は戦闘意欲が湧き上がり、サムライマスターを演じたくて堪らなくなった。
電光剣を構えると、ブーンという音と共に、空気の焼ける独特の匂いが漂う。
無数に湧いて来たゴブリン達が威嚇の唸り声を発しながらにじり寄ってきた。
「うわあああっ!」
悲鳴を上げた王様と魔女が、三木さんを置いて逃げ出してしまった。
棍棒を振り上げたゴブリン達が、四方から飛びかかって来た。
電光剣は横一文字の軌跡を描くと、容赦無く彼らの体を両断した。
倒した敵はすぐにチリとなって消えていくので、血や死骸を見なくても済む。さすが異世界ファンタジーの世界だ。
剣をヌンチャクのように左右へ振り回すと、刀身が8の字を描いてゴブリン達の身体をバラバラに切り裂いた。
自分でも驚くほど身体が軽く、しかも早く動ける。負ける気がしない。
殺陣の爽快感に私の心はシビれ、楽しくなってきた。そこでサムライらしい決め台詞を言うことにした。
「このまま退くのであれば見逃してやろう、だが、尚も戦うというのなら容赦はせぬぞ」
彼らにこの言葉は届かなかったようで、怯む事なく飛びかかってきた。
私の間合いに入った瞬間にゴブリン達は真っ二つに切り裂かれ、空中へ霧散した。




