16 校内を探索
合宿所へ案内された三木さんは、辺りをキョロキョロと観察するばかりで、あまり喋らなかった。
「我らは魔王を倒すため、この呪いの森を抜けて暗黒城へ行く旅の支度をしている。なあに、もう心配いらぬ。私が守ってやろう」
スケベオヤジの王様は彼女の側を離れようとせず、あれこれと話しかけていたが、三木さんは「はあ」とか「ええ」と相槌を打っているだけで、あまり真剣に聞いていないようだった。
魔女が皆に向かって言った。
「急にスカルゾンビが襲って来たということは、校舎に他のモンスターが入り込んでいる可能性もあります。手分けして校内をパトロールしましょう」
そしてメンバーをそれぞれ指差した。
「私と涌井殿、王様と北村殿、この2人組で探索します。三木殿は戦闘スキルのない聖女様なので、ここで留守番をしていただきます」
言われて涌井さんと王様ヒデがハッと顔を上げた。
「え?いやよ。私は北村君と一緒がいい」
「異議あり!聖女様は吾輩が守る。つまり、吾輩と行動を共にすべきである」
2人は激しく抗議したが、魔女塩原は受け付けなかった。
「守るなどと言いつつ、隙を狙ってエッチな事をしようという魂胆じゃな。このスケベおやじめ」
「な、なにを!?そんな不純な事など考えてはおらぬ」
ケンカが勃発しそうだったが、その空気を三木さんが吹き飛ばした。
「私も探索に参加します。王様と魔女さんと共に行動します」
あまり話さなかった彼女が急にはっきりと自己主張したので、我々は顔を見合わせた。
希望通り、涌井さんは私と2人で散策する事になったが、なぜか不機嫌で、眉間にシワを寄せたまま無言で私の背後を歩いていた。
教室を廻っている時だった。振り返ると彼女がいない事に気づいた。
「涌井さん?」
呼び掛けたが返事がない。
どこか別の教室を探索しているのだろうか。それとも急な生理現象に見舞われたのか。私は近くの椅子に腰掛けて、彼女が戻ってくるのを待った。
だが、10分、20分経っても来ない。さすがに心配になりはじめた時、どこからか声が聞こえてきた。なんだろうと気になり、階段を下った。
ちょうど職員室前の廊下で、王様と魔女そして三木さんが何かを話し合っている様子が見えた。いや、話し合うというより三木さんが2人へ詰め寄っている。
「ヒデさん、塩原主任、私の事を覚えていないのですか?任務だということを忘れてしまったのですか」
「おやおや聖女様、どうかされましたかな?」
「何か困ったことでも?」
必死に訴えかける彼女とは対照的に、のんびりしている2人。そんな彼らの様子を見て、三木さんは言葉に詰まっていた。




