14 お帰りください
相手がモンスターではなく美少女だと分かると、王様の態度が一変した。彼は私を乱暴に押しのけると素早く少女の肩を抱いた。
「そうかミッキーという名前か」
「三木、です」
「まあ、呼び方はどうでも良いではないか。か弱き少女が一人ぼっちで、さぞかし怖かったであろう。我らがいるから安心したまえ」
「あの、あの……」
三木さんは王様ヒデと魔女塩原を交互に見ると、何かを訴えるように口をパクパクさせていた。
私の背後から伺うように彼女の様子を伺っていた涌井さんは、やがて悪戯っぽく微笑むと、オーバーな動きで演劇を始めた。
「おお、何と言う事でしょう。あなたは天界から使わされた聖女様ですね」
その途端、あの強制演劇力が場を支配し始めた。
『さあ、演じよ』
という抗い難い雰囲気にあっという間に包まれた我々は、涌井さんになぞらい舞台俳優のようにオーバーな身振り手振りの演技で、少女へ向かって平伏した。
「素晴らしい!神よ感謝いたします」
「ああ。聖女様!」
「聖女様〜」
場を盛り上げるように雲の隙間から日光が差し込み、スポットライトのように三木さんを照らす。
涌井さんが更に声を張り上げて大袈裟に言った。
「あなたはきっと我々に愛と勇気を与えるために来てくれたのね!ですが、ここは危険な場所。速やかにお帰りください」
三木さんは困惑の表情を見せるだけで、我々の演劇の輪に加わることはなかった。そして冷静な口調で聖女だという言葉を否定する。
「あの……私、そんな特別な人ではありません」
涌井さんのオーバーな演技は続く。
「ああ。きっと呪いの森によって記憶を失われ、自分が聖女だという事を忘れてしまったのですね。では、一刻も早く天界に帰って療養すべきです」
そして「さあ、どうぞお帰りください」と校門の方を指差す。
「いえ。そういう訳にはいかないんです。私、ここに用があるんです」
三木さんが首を振って拒否する。
その言葉に、なぜか涌井さんはイラついた表情を見せた。そしてクルリと背を向け、パチンと指を鳴らした。
その途端、強制演劇力が戦闘っぽい雰囲気へと変わった。




