13 不思議な少女
瞼の裏に光を感じて目が覚めた。
朝が来ていた。
ベッドに涌井さんの姿は無く、仄かなシャンプーの香りがシーツに残っているだけだった。彼女と密着したまま寝落ちした昨夜を、私はニヤニヤしながら思い出していた。
食堂へ向かうとエプロン姿の涌井さんが朝食の準備をしていた。
私の姿を見た彼女は頬をピンクに染め、目を伏せながら「おはよう」と言った。
「あ、やあ。おはよう」
私は恥ずかしさと気まずさを抱きつつも挨拶をし、昨夜の件を詫びた。
「え、えと、昨夜は……ごめんよ」
「私の方こそゴメン。北村君に会えたのが嬉しくって、はしゃぎ過ぎちゃった……」
青春ドラマっぽくて、とてもいいシチュエーションだ。はにかみながら両足をモジモジさせている涌井さんが可愛らしい。
見つめ合う私たちを邪魔するように、王様と魔女が欠伸をしながら食堂へやってきた。
私たちはサッと離れた。
朝食後、王様が皆へ向かって言った。
「今日は天気も良く絶好の旅日和だ。さっそく出立しようではないか!という訳で、北村とはここでお別れじゃ。達者で暮らせよ」
冷たく言い放つ王様に、まなじりを釣り上げた涌井さんが抗議する。
「北村君も一緒に来てもらうべきです。昨日の戦いを見たでしょう?彼は、あんな巨大なキバ蜘蛛をたった一人で倒したんですよ!」
「あれは偶然じゃ」
「そんな訳ないじゃん!」
「調子さえ良かったら、吾輩だって一人で倒せたぞい」
激しく言い合う2人であったが、やがて王様は目に涙を溜めて子供のように駄々を捏ね始めた。
「嫌じゃ!涌井に他の男が寄りつくなんて嫌じゃ!」
「……つ、ついに本音を言ったわね」
涌井さんの腰に抱きついた王様は、涙を拭いているように見せかけつつ、彼女の尻に頬をすり寄せていた。
「涌井は吾輩のものじゃ!誰にも渡さぬぞ!」
「放しなさいったら!このスケベキング!」
その時、魔女がポツリと呟いた。
「……あれは、誰じゃ?」
彼女の視線は窓の外、グランドの中央を向いている。
そこには静かに佇む何者かの姿があった。
「うぬぬ。またモンスターか?!昨日は不覚にも北村に勝ちを取られてしまったが、今日こそは剣士らしく勝利を収めてくれようぞ!」
王様が合宿所を飛び出し、遅れて私達もあとを追った。
それはモンスターではなく、女子高生だった。
紺のブレザーとスカートというスタイル。髪の毛はショートカットのボブで、切れ長の目と整った鼻筋が植物的な印象を感じさせる美少女だ。
ドタバタと駆け寄った我々に彼女は驚いた表情を見せ、体をこわばらせている。
「名前は?」
問いかけると、少女は戸惑いながら細い声で答えた。
「み、三木知世……です」




