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11 アイデアノート

「君が35歳?」

 彼女をまじまじと眺めたが、どこからどう見てもあの時のままの女子高生だ。

「ふふふ。まぁ、ほら呑もうよ」

 涌井さんが私にグラスを渡した。

「北村君って剣道が強いんだね。感心しちゃった」

「自分でも驚いているよ。自分の手から電光剣が出て、しかも、あんな巨大蜘蛛を倒せたなんて」

 私は左手から再び電光剣を出現させた。青白い光が美しく、何度見ても惚れ惚れしてしまう。


「ふーん。そういうのって男の子が好きそうだもんね。気 に 入 っ た?」

 気に入った?という部分を随分とゆっくり喋ったのは気になるが、上目遣いで私の返答を待つ表情が可愛らしくて、私は大袈裟に何度も頷いた。

「もちろんさ。SF映画好きなら、誰しも一度は憧れる武器だよ」

「気に入ったのね?うふふ。それは良かった。じゃあ、それアゲルわ」

 パチン、と指を鳴らす。

「今の、なに?」

「んーん、何でもない。ほんと北村くんってば映画が好きだよね」

「へえ。僕の趣味をよく覚えているねえ」

「私に映画のDVDを貸してくれたじゃない。何本も自主制作を撮ったし」

「うんうん。仲間達とホラー映画を作ったこともあったよ。生徒会室の窓から夜の学校に忍び込んで撮影していると、当直の先生に追いかけられたんだ。幽霊より怖かった」

 2人で大笑いする。


 ふと、その時の記憶が蘇ってきた。

 日頃から映画好きの仲間と一緒に、自主制作映画のアイデアを大学ノートに記していたのだが、その中の1本を作ろうとしたのだ。

 学校に忍び込んで撮影を決行しようなんて若気の至りとも言えるが、我ながらあの時の行動力は素晴らしかった。

 そのアイデアノートは実家の押し入れにしまってある。


「私を映画デートに誘ってくれた事もあるよね?」

 ニヤニヤしながら尋ねてくる涌井さんに、私は飲みかけていた物を吹き出してしまった。そんな陽キャ的な行動をした事があっただろうか。

「ほら。クリスマス前のとき」

 言われて思い出した。

 新作映画のチケットが取れたので、思い切って彼女を誘ってみたのだ。断られる事を覚悟していたが二つ返事でOKが貰えたので、飛び上がるほど嬉しかった。

 だが、彼女は待ち合わせ場所に来なかった。

 その代わり、私のガラケーに『急な仕事で行けなくなった』と謝罪のメールが何通も入っていたっけ。

 一介の男子高校生と、仕事を持って稼いでいる女子高生。両者の間に高く大きな壁を感じた私には、それを乗り越えてでも涌井さんを無理に誘い出そうという勇気はなかった。


「あの時は本当にゴメンね。どうしても外せない、モデル撮影の仕事が急に入っちゃって……」

 手を合わせながら何度も頭を下げる涌井さん。

 高校生の姿をした彼女が「あの時は———」などと高校時代の思い出を語っている。

 とても大きな矛盾が発生中なのだが、あまり気にしない事にした。

 そんな事より、彼女との再会を楽しもう。

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