10 同級生と呑む
夜が更け、私達もそれぞれの居室で休む事にした。
「あの……」
居室へ入る前の彼女に声をかける。
「君と再会できて良かった。ここへ来て何かと不安な事ばかりだが、とても安心したよ」
彼女はクリッとした大きな目を向けて私を見た。そして恥ずかしそうに顔を赤らめながら笑った。
「ウフフッ。やっぱりオッサンっぽい喋りね」
セミロングの髪がさらりと揺れ、流し目で私を見つめながら、部屋の中へと消えていった。私は照れくさくなり、頭をガシガシと掻きながら部屋へ入った。
室内にはパイプベッドが1つ。そして小さな机と洗面所、冷蔵庫がある。私はシャツを脱いで、上半身裸のままベッドへ横になった。
今日は信じられない出来事が重なり、頭がとても混乱していた。
当初は死後の世界へ来たと思っていたが、異世界へ転生したという可能性も浮上してきた。魔法、呪いの森、キバ蜘蛛など、異世界を連装させるものに溢れているからだ。
自分が高校生へと戻り、あの時のままの涌井さんが現れた理由はなんだろう。
不思議な強制演劇力に「サムライマスター」を演じさせられたのはなぜだ?
何かと理不尽で疑問点は多い。
しばらく考えていたが答えは出てこない。このままでは眠れそうになかった。
そうだ。駅のキオスクでアレを手に入れたんだっけ。こいつを今やらずして、いつやるというのだ。
私はデイパックの中から焼酎の瓶とジュースを取り出し、適当に混ぜてチビチビ飲み始めた。
その時、ノックの音がした。
ドアを開けるとジャージ姿の涌井さんが立っていた。上半身裸の私を見て少し驚いた表情を見せたが、照れ臭そうに自分の肩を抱きながら、はにかんだ笑顔を浮かべた。
「なんだか眠れなくて……ねえ、北村君は何をしていたの?」
彼女は私の肩越しに部屋の中を覗き込んだ。
「な、何もしていないよ」
愛想笑いで誤魔化そうとしたのだが、目ざとく焼酎を発見した彼女は素早く部屋へ入り込み、瓶を手に取った。
「これ、お酒でしょう?」
「え……いや、その」
戸惑っている私に構わず、涌井さんは嬉々としながら言った。
「私も飲みたい!」
「君はまだ高校生だろう?お酒は早いよ」
大人として未成年者の飲酒を認める訳にはいかない。だが、涌井さんはプッと吹き出して笑った。
「イヤねえ。北村くんだって高校生でしょう?」
そういえばそうだった、と言おうとして、慌てて首を振った。
「実はこう見えても中身は35歳のおっさんで……」
彼女は私の言葉を聞いていなかった。
隙を突いて床のコップを奪うと、グビグビと勝手に飲み干してしまった。そして嬉々として2杯目を自分で作り始めた。
「ねえ。実は私も同い年の35歳だって言ったら驚く?」
そう言った涌井さんが、悪戯っぽい上目遣いで私を見た。




