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最終話

 4人で学校屋上のベンチに座り、地平線の向こうに沈みかけている夕日を眺めていた。

「目……腫れちゃったね」

 と、涌井さんが笑う。

「私達、泣きすぎですね」

「一生分は泣いたかもしれないぞよ」

 チィがケラケラと笑い、つられてみんなが笑った。

「ところで、この夢世界のホストは誰なんだい?」

「もちろん北村さんです。北村さんの夢の中に、涌井さんが間借りしている状況なんです」

 ミッキーが教師のように人差し指を立てて答えた。


「前回までの件もあり、北村さんの脳はだいぶ鍛えられているようです。なので、ちょっとやそっとの間借り状態ではびくともしません」

 校舎の隅々まで忠実に再現され、地平線の向こうまで街並みが続いている。確かに私の拙い記憶ではここまでのクオリティを生み出すのは無理だ。

「朝になる前に我々は解散しますので、北村さんも通常通り目覚めます。以前のように、何日も寝たままだと大変ですから。涌井さんはしばらく私の頭の中へ居候することに決まりました」

 そう言って、ミッキーは自分の頭を指さした。


 涌井さんが「そうそう」と手をポンと叩きながらキラキラした目で我々に向かって言った。

「令和って、なかなか良いじゃない。ドラマもアニメも映画もゲームも漫画も、みーんな素晴らしいわ。特にCGの発展が映像のリアルさを飛躍的に進化させたのよ!」

「涌井さんは、あれから人々の夢を渡り歩いて、頭の中にあるエンタメ系の記憶ばかりを漁っているそうなんです」

 ミッキーが私へ耳打ちした。


「ちょっとチィ。あんた七界大戦ばかり読んでいちゃダメよ。たまには映画も見なさい」

「え?いつの間に私の頭に入ったのじゃ?!」

「ミッキーも恋愛ものばかり。しかも年上男性との恋物語を……」

 そう言いかけた涌井さんの口を、顔を真っ赤にしたミッキーが慌てて押さえる。

「言わないでください!言わないでください!」

「モ……モゴッ……わかった」


 辺りがどんどん暗くなっていき、街の夜景が広がってきた。繁華街のネオンが輝き、遠くに見えるタワービルがライトアップされた。


「今日、北村さんにはこれを持ってきました」

 そう言いながら制服の内ポケットから封筒を取り出す。

 中には三つ折りになっている便箋があり、それには筆書きの文字が記されていた。

「機関からの正式なスカウトです。これと同じものがリアルワールドでも届きます。夢世界を不正に利用する悪徳企業や他国から人々を守る、誇り高い仕事です。どうぞ、ご検討をお願いします」

「僕を国の機関へ?」

「今回の件で私達の働きを見た幹部が、北村さんを招くように、との指示を出しました。私達調査員の殆どが、そのようにスカウトされたんです。先ほど、このお2人にも同じものをお渡ししました」

 涌井さんとチィがお互いの肩を抱き合いながらニンマリと笑った。

 とてつもない話になってきた。

 まさか、この私に引き抜きの機会が訪れるとは思ってもいなかったので、どうにも思考が回らない。


「そうそう。思い出したわ!」

 突然、涌井さんが勢いよく立ち上がった。

「まだ、やっていなかった事があるの。はいはい、みんなそこに座ったまま見ていてね」

 屋上の金網の前まで歩いて指をパチンと鳴らす。

 途端、夕焼け空がスッと暗くなり、辺りは完全に夜となった。


 遠くにはいくつものオフィスビルや高層マンションが立ち並び、道路を走る車のテールランプが建物の間を行き来する様子が見える。

 夜空には大きな満月と、美しい星々が散りばめられていた。


 振り返った彼女がニヤリと笑った。

「さあ、行くわよ」

 再びパチンと指を鳴らす。

 すると、ビルの向こうで地面から夜空へ向かって細い光の筋が伸びていき、ドンという大砲のような音が響くと、大小様々ないくつもの花火が夜の街を照らした。

「わあ!」

 皆が歓声を上げる。

「こないだのお祭りの続きよ!」

 涌井さんがウィンクする。


 夜空を彩るスターマイン。

 その美しい光景は、我々の再会とこれから始まる新たな冒険を祝福しているようだった。



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