3話 背水の肥満
意識を失っていたのは時間にしてほんの数秒だった。
酷く寒いのだが腹の中央が焼けるように熱い背反した感覚の気持ち悪さに目を覚ました燈生がまず最初に覚えた感情は歓喜、そして困惑だった。
大きな岩に対してつっかえ棒の要領で倒木を水平に置き、乾いた倒木の鋭利な折れ口を相手の突進のパワーを利用して身体に捩じ込んでやる作戦。
その針に糸を通すような馬鹿げた作戦は咄嗟に考えたにして上出来過ぎるほどの結果に終わっていた。
脳天のど真ん中に倒木がぶっ刺さったその巨猪は血が混じった泡を口から零していた。
先程まで自らのテリトリーを穢した外敵に対して過剰な程の殺気を振り撒いていた血に飢えたその双眸は今やぐるりと上を向き、白眼を剥いている。
グジュリという耳障りな音ともにその巨躯が倒れ、斃れた。
「……やった!!!上手くいった……?」
歓喜、安堵、そして違和感。
目が覚めた時に感じた腹部の異熱の正体。
四肢の先から抜けていく力。
異変の連続に思わず痛む部位に目を落とした燈生は言葉を失った。
自分の身体の中心からは何の皮肉なのか先程討伐したイノシシと同じように倒木の先が背中から抜けて突き出ていたのだった。
素人目にもおおよそ長くは保たないであろうと分かるほどの血を吹き出しながら、月夜に照らされ、てらてらと醜く光るその先端に触れ、確かにその存在を認識した燈生の手から途端に力が失われ、その腕をダラリと垂らした。
作戦を練り、実行までは移した。
敵は思った通りに動き、後はギリギリまで引き付けたイノシシを躱し、その図体に倒木パイルを叩き込むだけだった。
それが全て決まれば万々歳のハッピーエンドだった。
だがそうはならなかった。
燈生は別にヒーローやスーパーマンでは無い。
ただの28歳の疲れきったリーマンだ。
恐怖で竦んだ足は横には避けるのは無理だと燈生の脳に叫び、半ば反射的に後ろに倒れこんだ燈生の身体は見事吹っ飛ばされ、その勢いのままにイノシシと共にBBQの肉串状態になったのだった。
「だすげ…で……っ!」
どうにもならない状態のまま、声にもならない声で叫んだがそんな儚い命乞いの声すらも冬の山の風は無情にもかき消す。
悲しいような悔しいような、そんな自分でも判別が出来ない感情のままに燈生は泣き、その間にも時間は過ぎ、命の源はひたすら流れ出す。
「何これ…?俺、こんな訳の分からん死に方するの…?」
更に時間が過ぎ、すっかり走馬灯も見えた頃になっても誰の助けも来ないまま、冬の山の風はそのすっかり小さくなった燈生の生命の炎をフッと一息に吹き消したのだった。
死んで転移するまでに3話も使うのってどうなんですかね。
セリフ回しとか景観描写とかクドくないですかね(小心)