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2話 生き足掻く肥満

オッス!俺、飯山燈生!

目の前にいるのはクソデカイノシシ!


「一生終わらせに来るの早くない?」


目の前の状況があまりに日常と乖離しすぎて思わず某球を集めて願いを叶える系主人公みたいになってしまった燈生の意識は、目の前に居たイノシシが此方を認識し、明らかに外敵だと判断した様子で鼻を鳴らしたのを見て、途端に現実に引き戻された。


何を号令にする訳でも無く、そのイノシシは愚直に目の前の外敵を排除すべくその巨大な図体の質量を武器にして突っ込んで来たの見て、燈生はここでようやくワタワタと足を動かし逃げの一手を打った。


というか俺は別にアニメや漫画の主人公じゃない。撃退や討伐なんてのは猟師の仕事で俺に出来るのは逃げる事だけ。


「ウオオオオォォォ!!!!」


微妙にホーミングしながら突っ込んでくる巨体を間一髪躱した俺は、振り向くと後ろにあった倒木が何の抵抗もなくへし折られてるを見た。


もう俺は泣いていた。


「食うに困らないようにとは言ったけども!食料の方から殺しに来ることあるかよ!!!」


方向転換したイノシシと尻餅を付いた俺の目が合った。知性の欠片も無いおおよそ殺意しか汲み取れないその目を見ただけで俺の足はすっかり竦んで動けなくなってしまった。


再度勢いを付けて突っ込んできたイノシシを転がるように避けようとした俺だったが、現実なんてのはゲームと違ってそんな甘くない。


その重い身体動かそうともがいた結果、直撃は避けれたが燈生の常人の1.5倍はある当たり判定が災いして左腕全体が轢かれるようにイノシシと接触した。


ボゴッという鈍い音ともに鋭い痛みが燈生を襲い、視界が比喩でなく明滅する。


「イ゛ィッッ……!でぇぇぇぇえ゛〜〜!!」


痛いよねそりゃ。車に轢かれてるようなもんだもん。絶対折れてるよこれ。

痛すぎてゲロ吐きそうだし、もう涙と鼻水とか出まくりで多分ブルドッグみたいな顔になってる。


『ヴモオォォォォォ!!!』


身も凍るような雄叫びをあげながら今度は確実に息の根を止める気で燈生にその短くも鋭い牙を向けたイノシシを見た燈生の眼前に『死』の一文字が過ぎる。


「クソっ!ッざけんな!こんな死に方…!神とやらが居るのならなんとかしろよ!!!」


激痛に対し、防御本能で脳内麻薬がドバドバ生成され一時的に冷静さを取り戻した燈生は、悪態をつきながらもなんとかその命を繋ぐ為、周囲を見回した。


「何か無いのか!何か…。」


小さな社、唯一の逃走路の階段、へし折られた倒木、濡れた落ち葉、大きな岩━━━━━。


階段はイノシシを挟んで対角にあるし、野生の動物から足で逃げ切るなんて現実的に不可能。


逃げるのは無理。残った勝ち筋を必死に思考する。


「……ッ!もうやるしか!」


ふと天啓が降りてきたように思いたった作戦。普段の正気な状態なら鼻で笑うような無理な作戦とも言えない愚行。

それでも後がない燈生はやるしか無かった。


臨戦態勢のイノシシに背中を見せ、出来るだけ早く走った。


背中に迫る死の足音を聞きながら、生に確かにしがみつこうと足掻く。


一番最初にイノシシが突っ込んだ倒木に眼を据えて、その倒木を渾身の力で動かす。


イノシシは既にその荒い鼻息が聞こえる所まで迫っており、今すぐにでもそこから離れたい気持ちをなんとか押し殺し、動く。


倒木を目的地まで持っていくと燈生はその真正面に構えた。

ギリギリだ。ギリギリまで引き付けなくてはこの作戦は成功しない。


「死んでたまるかくそ!まだやりたい事、食いたい物が沢山残ってんだ!!」


死を帯びた質量の塊が迫る。

その前に立ち据えた燈生の視界がスローモーションになり、激痛で害されていた思考が突然クリアになる。


それはまるで世界が最期を迎える覚悟をしろと言わんばかりの空白だった。



━━━許してね。



確かに聞こえた。

最初鳥居が見えた時から社を目の前にした時までずっと聞こえていたあの声だった。


途端、時間が急速に加速し現実のスピードに戻った。


「うおおおおおおおおぉぉぉぉ!」


猛進する死の射線から飛び退いた燈生は猛烈な衝撃と轟音を耳にしたのを最後にその意識を手放した。

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