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第2話 モンターニャの森

 第2話 モンターニャの森


「さあ、転生を開始しよう」


 その神様の声が、私の心の奥深くに温かく響きわたり、意識が未知の世界へと静かに導かれていく。

 目を開けた瞬間、私は見たこともない植物が生い茂る、深く神秘的な森の中に立っていた。

 エルフとしての新しい人生が、この未知の地で幕を開ける。

 心は不安よりも、新たな始まりへの大きな期待で満ち溢れていた。

 神様から授かったこの力を使って、どんなことができるのか、その可能性を探るのがもう待ち遠しい。

 しかし、その前に、まずは自分の能力を確認し、街を探すか、新たな拠点を築く必要がある。

 そんなことを考えていると、頭に声が響いた。


「マスター、初めまして。私はAIです。」


 !?

 えっ、何?これは・・・。


 驚きつつも、これが自分に与えられたユニークスキルのAIであることに気が付いた。


「君が私のユニークスキルのAIか?」

 と確認すると、


「はい、これからを共に歩むパートナーとして、よろしくお願いします、マスター」

 とAIは応えた。


 一人での冒険は少し寂しさも感じていたが、AIの存在がそんな心を一気に晴らしてくれた。

 ただ、「AI」という名前には少し温かみが足りないように思えた。


 そこでふと、フランス語でクリスマスを意味する「Noël」を思い出す。

「AIくん、君の名前を『ノエル』とするよ。もっと親しみやすいし、君の存在が私にとって特別なものになるからね」


「承知しました、マスター。そして、名前をいただき、ありがとうございます」


 ふふふ名前!!

 その声には、どこか喜びが満ちているようだった。新たな世界での冒険が、この瞬間から始まる。私とノエル、二人で未知なる旅を歩んでいくのだ。


 さて、まずは太陽の方に向けての旅を開始しますか。

 日が暮れる前に、拠点になりそうな場所を探さなければならない。


 テンプレだと、街の近くか森の中だから予定通り。

 ただ、獣道や足跡もないから、街から相当離れた森の奥かな。


 こんな状況のテンプレは大概、夜に強敵が出現することも多いし、盗賊に捕らえられて奴隷の身からスタートするなど、好ましくない展開になることが多い。

 まずは力をつけてから街へ行くのが賢明だろう。

 だってさ、『俺最強!!』って気持ちよくない?


 そう心に誓い、私は一歩一歩、森の奥へと踏み込んでいく。


 道なき道を進むのは予想以上に困難で、周りは木々に囲まれ、人の手が入っていない自然そのもの。

 人里離れたこの地で、人の気配は微塵も感じられない。

 本当に人の気配はまったくないな。

 この森広すぎる・・・


 そんな時、私は新たな仲間、ノエルに助けを求める。


「ねえ、ノエル。ここら辺に人が住んでいるような場所はないの?」


 と尋ねると、


『この周辺には村や町は存在しません。ここはシエロ帝国とグラン王国の狭間、モンターニャの森と呼ばれる場所です。エルフや魔族が暮らす場所もありますが、ここからもっと離れています』

 とノエルは答える。


 そうか、じゃあとにかく拠点となりそうな場所まで歩き続けるしかない。

 スキルの確認もまだ済んでおらず、何か魔物が現れたら手も足も出ない。


 リディアは、転生してきたばかりで、戦い方一つ知らない。ましてや、魔法の使い方など、夢にも思わなかった。この新しい世界での最初の試練が、こんなにも早く、そして残酷に訪れるとは。


 ロールプレイングゲームの中では、どんな強大な敵も、成長と共に倒せるようになる。だけど、現実はゲームとは違い、レベル1の彼には、ただ逃げることしかできない。背後から迫る死の恐怖に、彼は「ダダダッ」と森を走り抜ける。その足音は、まるで自分の無力さを嘲笑っているかのようだ。


「こんなはずじゃ…」彼の中には、ロールプレイングの主人公のように立ち向かいたいという願望と、現実の自分の無力さとの間で、深い葛藤が渦巻いていた。恥ずかしさと、もどかしさ。それでも、彼にはまだ生きたいという切実な願いがある。


「逃げるしかないんだ…!」と心の中で叫びながら、必死に足を動かす。その時、見つけた唯一の逃げ場、大きな木へと彼は身を投じる。木の上から下を見下ろすと、巨大な蟻のような魔物の大群がうごめく様子が目に映る。その光景は、まるで絶望を具現化したよう。リディアは自分の命の脆さ、そしてこの世界の残酷さを、肌で感じる。


「ロールプレイングの主人公はすごいよな…」と、苦笑いを浮かべつつも、自分もいつかはそうなれるかもしれないと、微かな希望を胸に秘める。この試練を乗り越え、いつかは強くなりたい。そんな強い意志が、リディアの中でほのかに燃え始めていた。


 ・・・・


「ふう…。生きていてよかった。死ぬかと思った。普通、スライムかゴブリンからスタートするんじゃ…?転生してすぐ死ぬとか意味わからんし…」


 安全な木の上でほっと一息ついたリディアは、自分が本当にエルフになったのか確認することにした。手を伸ばして耳に触れると、その感触は間違いなく長く尖ったエルフの耳だった。一安心し、少し嬉しくなる。


「はぁ、なんでこんなに理不尽なんだろうな。普通のゲームなら最初は弱い敵から始まるのに、いきなりこんな化け物相手なんて…」リディアは呆れたように独り言を続ける。「でも、まあ、生きててよかった。こうして安全な場所に逃げ込めたのも運が良かったのかもしれないな」


 木の上から見下ろすと、まだ巨大な蟻のような魔物たちがうごめいているのが見える。「まったく、こんなのが当たり前なんて、どんな世界だよ…」リディアは頭を振りながらも、自分の無力さを痛感しつつ、少しずつ覚悟を決めていく。


「顔の方は…」鏡がないので確認はできないが、エルフとして転生したならば、きっとイケメンに違いない。「だよね?少なくとも、そうであってほしい…」リディアは小さく笑いながら、自分に言い聞かせるように呟いた。


「よし、まずは生き延びることが最優先だ。ここからどうやって強くなっていくか、考えないと」リディアは決意を新たにし、次の行動を慎重に考え始めた。


 リディアは、自問自答しながら気になることが浮かんだ。先ほど遭遇した巨大な蟻のような魔物について、ノエルに尋ねてみることにした。


「ノエル、あの巨大な蟻みたいな魔物は一体何だったのだろう?」


『それらは軍隊蟻と呼ばれる魔物です。その圧倒的な数には勝ち目がありません。避けて正解でした』とノエルが答える。


 その言葉を聞いて、リディアはこの森の恐ろしさを改めて思い知らされた。未知の世界で生き延びるためには、冷静かつ慎重な行動が求められるのだと痛感した。


「ゴブリンのような小さな魔物たちではない……巨大な蟻だと?これは、全く新しいレベルの脅威だ」リディアは息を呑みながら独り言を漏らした。


 これまで耳にしてきたファンタジーのテンプレートとは一線を画す、この森に潜む真の危険性に直面していた。ファンタジーの世界で聞き馴染みのある、比較的弱いとされる生物の代わりに、その巨大な姿と圧倒的な数で現れた軍隊蟻は、リディアにとって未知の強敵の出現を意味していた。


「生き延びるためには、もっと強くならなければ……」


 リディアは再び息を整え、周囲の木々を見渡した。「こんな理不尽な世界で生き延びるためには、どんな手段でも使うしかないんだ…」心の中で呟きながら、彼は決意を固めた。


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