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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

エラーコード

作者: ドンドコ

構成、執筆に計24時間費やしました。

そしてこの物語は、最強の殺し屋での没となった案を再度こういった短編で、全く新しいものへと変容させました。

タイトルは未定。だからこそ名前はエラーコード。

最強の殺し屋は、日曜日以降に更新する予定です。

 「はあ。はあ。はあ。」

 一人の少年は走る。後ろには誰もいない。ただ見ることができない何かがここに迫ってきているのだ。

 「くそ。やばい。」

 少年は立ち止まりスマホを取り出す。

 「ようやくその気になったのか、盗賊が。」

 セリフとともに透明であった一人の男が姿を現す。

 この手を使うしかない。

 「レイズ。コードアリババ」

 「いいね。レイズ、コードジャック」

 [賭け金が30envyベッドされました。これより、バンカーを開始いたします。」

 ここは、無境界。霧にまとわれた地域で行われるのはチームでの戦い。

 異能同士で行われる、略奪戦だ。

 


 3時間前。

 「ここが無境界か。」

 少年、金光(かねみつ)はこの場所に来ていた。

 無境界。

 少し前に起こった天災による影響で、ある街が霧に包まれた。

 そこは人が寄り付かなくなり、ついた名前は無境界。境界線そのものが消えてなくなったからだと。

 そしてそこでは奇妙なうわさがあった。なんでもそこに入れば超人になれるのだとか。

 にわかには信じられない話であったが、そもそもこの場所が大衆を寄り付かせなかった要因にもなるらしい。

 ある調査で特殊部隊30名近くがそこに行くと、帰還してきたのはわずか2名ほど。

 調査の結果、複数人がそこに住んでおり、見た目はかなり幅広かったとのこと。

 人種が混在していたといってもいい。そこには日本人以外にも北欧やアフリカと様々な人たちがいた。

 そしてその二名は数日後なくなったとのこと。原因はウイルスによる感染が一名。もう一名は脳が破壊されたのだ。

 しかしその調査があっても度胸試しや噂を聞きつけてやってきたものもわずかにいたらしく、政府はその街、無境界を国の非対称地域、要はその地域をブラックリストに入れたのだ。

 そして僕もそのバカ一人となるのだとか。

 一人の警官が用箋挟に挟まれた紙とペンを渡す。

 「君。今なら引き返せるよ。この先に行ったものはそこに住んでいるか、もしくは死んでいるか分かりやしない。それに君は若いんだ。ここで人生終了するのはまだ」

 「それでも入りたいです。その先に何があるか確かめたい。ただそれだ」

 「ちなみに。私の友人は調査でこの街に行ったっきり帰ってこない。もういないのかもしれない。」

 警官は小さく重くつぶやいた。

 これ以上その先に行くなという警告なのだろう。

 でも僕はその先に行きたいのだ。

 僕の兄も調査でこの街に行って、帰って来た。そのあとに脳が破壊されてしまったが。

 でもあの時兄はこういった。

 「俺たちの調査は成功した。でもそこにいた住人はそれを許さなかった。街の中心にはすべての理をひっくり返すほどのものが眠っていた。でも彼らはそれを守っている。」

 真偽は不明ではあるが、兄のその遺言に従うのも悪くはないと思っていた。

 入れば超人になれる。その言葉はロマンを引き立てるほどの良さがあった。

 金光はペンを走らせるように紙に書かれたすべての事項を記入し、警官に渡した。

 「僕は行きます。では」

 警官はその姿を見ても止めなかった。

 彼にとってはただの一般人に過ぎないのだろう。だが危険を承知でいく姿を見た彼は、反射的に敬礼をした。

 金光の姿が霧に包まれる。外からは彼の姿もとらえることはできない。

 彼はこの日本から姿を消した。

 地図から消された場所に彼は移動した。

 

 

 無境界に入ると、そこは外の世界に似ていた。

 大きいビルが連なっており、目の前にはスクランブル交差点もある。

 それにさらに奥には駅もあった。

 「意外と普通なんだな。」

 金光はさらに奥に進む。

 すると誰かが彼を後ろから引っ張る。

 金光は引っ張られたと同時にしりもちをつき、言葉を発するが、引っ張った彼女は彼の口を手で覆い隠す。

 静かにというジェスチャーのようなものである。

 すると大きな影が金光の真横を突っ切った。

 早すぎるがゆえに正体さえも分からずじまいである。

 「君どこから来たの。」

 少女は彼に問う。

 「南町の境界線から。」

 「じゃあ外部から来た人ね。」

 少女はポケットから煙草を取り出し、ライターを金光に握らせる。

 口にくわえた彼女は視線を金光に向ける。

 「火」

 その言葉を聞いても彼は理解できなかった。

 彼女は舌打ちをし、ライターを取り上げる。

 火をつけ煙草をふかした後にそのたばこを捨てた。

 煙が周りの霧と同化するように消えていく。

 「私はドール。盗賊団ポストに所属している。まあそれはおいおい説明するか。あんた名前は。」

 「金光。名字はすてた。」

 「OK。でも名前は以後禁句。たまに名前で殺すやつもいるからさ。」

 「名前。あと殺すって。」

 「そう。まあついてきてよ。案内するよこの場所。」

 ドールは立ち上がり、歩き出す。

 金光はドールの後をついていくように歩き出した。

 

 「ところで盗賊団ポストって。」 

 「私が所属しているチーム。envyを獲得するのに毎度ほかのチームからいろいろと盗み出してんの。」

 「そういえばチームって。あとenvyも。」

 「いろいろと説明するからいったんお口ちゃっくで。」

 ドールは唇の端から端を親指と人差し指を合わせて、沿うようなジェスチャーを行う。

 「まずこの街は時が止まっているの。80年ほど前にかな。そこでこの街に住んでいた人たちは超常能力を手に入れた。能力の発動条件は電子機器を持っていたから。なんかここら一帯が一度地盤沈下を起こして、そのあとに地下にあった鉱脈の電子が反発しあって強力な電磁波を作り出した。それが電子機器を狂わして、それに触れていた彼らも同様に変化していった。とかだった気がする。」

 正直能力の手に入れ方がかなりあいまいな気がする。それに化学的にもあり得ない話だ。

 「それで異能力者がその街で一つの国を作ろうとしたんだけれど、能力が開眼してから彼らは傲慢になっていった。それでこの街はいろいろな派閥に分かれていって、最終的にはチームという組織が次々に誕生していった。私の所属している盗賊団ポストは南東付近を自身の領地として扱っているよ。今はそこに向かっている途中。」

 そうか。

 「そしてenvyはここでの通貨。スマホに登録されていくから、そこからいろいろ買ったり異能同士で戦いあうこともできるんだ。」

 「どういうことだ。なぜ異能同士で戦う必要が。」

 「まあそれは中心にいかないとわからないから、明日そこを案内してあげる。」

 中心。もしかしたら兄の遺言であった理をひっくり返すほどのものがあるのかもしれない。

 金光は期待しながらドールについていった。

 しかし80年前か。

 金光は辺りを見渡す。景色は外の世界とは変わらない。木造建築の建物が並んでいるのかと考えてはいたが、そのようなものはここにない。コンクリでできたビルが連なっているし、それが少しぼこぼこだ。

 穴だらけとかではなく、風化しているような感じではある。

 「もうすぐ着くよ。」

 ドールはそういうと、少し先の光が見える空間に入り込む。

 かなりまぶしい。霧に包まれていると聞いたが。こんな光、向こうは一体。

 そう疑問に思いながら、金光はその先へと行く。

 「ほら。あれ。」

 ドールは向こう側の景色に指をさす。

 そこは先ほどまでいた空間と違い、空は快晴であり、広大な草原が広がっていた。

 「ここって。」

 「私たち盗賊団ポストのアジト。」

 盗賊団のアジトのようには見えない。建物が向こうの小屋一軒だけであり、それ以外の建物はない。あるとしても少しだけ広がっている畑と牧場のみである。

 「盗賊団っぽくないだろ。でも活動はそれに近い。」

 「そうですか。でもなんでここだけこんなに晴れて。無境界は上空からでも視認できないはず。」

 「それは空間の干渉を受けているからね。さっき言ったけどさ、ここは80年前の状態。でもこの空が晴れているのはここのリーダーが買った特権の一つ。」

 特権。

 「まあ早くいくよ。今日珍しくリーダーがいるからね。」

 ドールは走り出す。

 金光も彼女についていく。

 ドールが小屋をノックする。

 「E、I、S、H」

 すると小屋の扉が少し動く。外観とは似つかわしくない回転扉であった。

 「入れ。」

 いきなり見知らぬ声が聞こえ、ドールは躊躇せず入る。

 金光も扉の先に入ると、そこから先は広い機械仕掛けの空間に入った。

 小屋の中かと疑問に思うほど。いやそもそもここは本当に小屋の中での空間か。

 先ほどの空間の干渉が金光の頭から離れない。

 重大な要素の一つであると実感しているからだ。

 「やあドール。そちらは」

 金髪の男がコインで遊びながらここに来た。

 「こいつは金光。今日からここに来たもののようだ。」

 「ああ君ね。よろしく金光。僕はポイント。まあでもその名前も変えておこうか。」

 「どういうことだ。名前を変えるって。」

 「そのまんまの意味だよ。ここは国も関与しない街。戸籍なんてあってもないようなもんだ。それに名前があっても得なんてない。損しかないのさ。」

 この人。いろいろと見透かしている感じがする。正直言って。

 「そうだな。基本はパスコードで決めるけど。」

 「パスコード?」

 金光がそう聞くと、彼は前ポケットに入れていたスマホを彼が取り上げ、SIMカード入れを取り外し、そこに用意されていたチップをはめ込む。

 そしてスマホを軽く投げ返した。

 金光がキャッチするとスマホの電源が付き、画面にNo10020とpasscord Alibabaと書かれていた。

 「あの。これって。」

 「ああ。この無境界専用のSIMだよ。無境界では外とは違う回線が存在する。その回線がシステムとして通じているのさ。だから最初はこういったカードを使わないと脳力も発言することは出来ない。」  

 「なるほど。しかしそのカードの入手方法は。人から人への手渡しではないでしょう。」

 「そうだね。人から人は最近だとあるけど、初めは中心部まで行かなければならない。でもそこまで行くまでに戦闘もある。特に初心者狩りがあるからね。」

 「戦闘?それに初心者狩りって、まるでゲームのように。」

 「ゲームだよ。ドール。中心部の話って。」

 「まだ。先に案内しておこうかと。」

 「そっか。じゃあ先に言っておくよ。この街の住人はね、envyと権能を集めているんだよ。この街で王になるために。」

 「王?」

 「ゲームマスターだよ。envyはこっちでいうところの通貨だけれど、生命線でもある。envyは初めに100程入っている。そしてenvyを消費すれば突然所持していた分減っていく。ここからが重要だよ。所持したenvyが0になると、死ぬ。」

 「死ぬんですか。」

 金光は再度聞く。

 「そう。そしてenvyを稼ぐには戦闘しなければならない。戦闘はスマホのマイクに反応しスタートされる。レイズ。コードハンニバル」

 すると金光のスマホに通知が入る。

 [コードハンニバルの戦闘準備が整いました。参加しますか。 はい/いいえ]

 ポイントが金光がスマホを確認した姿を見ると、「ドロップアウト」と唱える。

 唱えた瞬間金光から来ていた通知が消えた。

 「今のが戦闘のスタートと戦闘の強制終了。戦闘の参加を申し出た時は相手からの攻撃を受けない。そして両者が合意した後に賭け金として初め30envyが設定される。この時に賭け金の設定金額を帰ることは可能。最低10envy、上限無し。そして掛けたenvyの分能力値が上がる。まあ基本はこんな感じかな。」

 「でもそう考えたら掛けた額が多ければ強いってことになるのでは。」

 「まあ待て。最初に言ったろ。envyは生命線でもある。もし相手が100、君が10掛けて君が勝つとする。戦闘に勝利すれば君は110envyを獲得する。それに戦闘は同じ相手にもう一度申し込むことが可能だ。つまり、多額の賭け金で負けてしまったら相手が有利になるし、0になれば死ぬ。リスクとリターンは考慮しなければいけないのさ。」

 なるほど。それに相手に勝てたらそのenvyを使って戦局が有利に転じることも出来るのか。

 「それに能力には当然相性もある。ここではコードが3種類あって、それぞれ人、神、夢となっている。人は夢に強く、神は人に強く、夢は神に強いといった三すくみで構成されている。だから賭け金では勝敗はつかない。ちなみに僕とドールは人、君は夢の属性だ。」

 夢。おそらくこれら3種類はパスコードの名称になぞらえている。ハンニバルは古代ローマ帝国を打ち破った歴史上の人物。

 そして俺のアリババは空想上の人物。元ネタは『アリババと40人の盗賊』。そして神は神の名前がつけられたものだろう。

 「あともうひとつ。これは間違いなく言わなければならないことだ。権利と権能。権利は1000envyを消費することで1回分のシステムを扱うことが出来る。例えばこの空間も、僕が買った空間の権利。セーフティーゾーンを作るシステムだ。そしていちばん警戒しなければいけないことは、能力使用の権利。これは戦闘に入らずとも能力を扱うことが出来るもの。」

 「能力を使用出来る権利。でもそれの何が危険なんですか。」

 「実は戦闘というのは攻撃でもあり防御にもなり得るもの。戦闘に入らずとも人を殺すことは出来る。そして殺せばその相手の全てのenvyと権利を奪えるのさ。逆に戦闘を開始させることでenvyによる戦いに転じることができる。戦闘では死んでもenvyが減らされるだけで死ぬことはない。」

 なるほどな。戦闘では殺されることは無い。envyを奪う戦い。リスクとリターンがある。

 でも暗殺はノーリスクハイリターン。戦闘に入らずとも相手の全てを獲得出来る。

 金光はポイントとの会話を思い出す。

 「初心者狩りってまさか。」

 「そうだ。そして初心者狩りの情報も広まっている。黒い影。名前はひとまず蜃気楼と付けてはいるが。」

 蜃気楼。黒い影って。

 「ドールさん。もしかしてあの時の。」

 「・・・そう。もしあの時一瞬でも止めるのを遅かったら、死んでたのよ。」

 だからあの時必死に止め・・

 金光はドールの腕を見る。

 赤く小さな点がそこにあった。

 「ドールさん。それ」

 金光はそれに指を指す。ドールが確認したその時、それは赤く光り輝き、無数のナイフがドールの体に突き刺さる。

 そしてそこから1人の男が出現した。

 「いやはや釣れたな。刷り込ませておいて正解だった。」

 刷り込み。もしかして初心者狩りは他のプレイヤーを騙すため、いや狙うための嘘。

 俺は撒き餌として利用されたのか。この機を狙って。

 「その服装。殺人愛好会か。」

 「その通り。盗賊団ポストのリーダー。」

 「逃げろ。」

 ポイントは金光に強く言う。

 金光はドールの死体を見て逃げるのを躊躇うが、すぐさまこの部屋を抜け出した。

 「いいね。じゃあどうやって殺そうか。」

 「それはこっちが決める。」

 [レイズ。コードハンニバル。]

 [レイズ。コード。ジョン]



 金光は走る。

 ポイントは作成したセーフティーエリアを抜け、元来た道に走る。

 なんで。もしかしてあの時に。いや気づいてたんだ。僕がここにいることを。ただそれを見ていた。機を伺ったんだ。

 すると横から黒い影が現れるのを彼は発見した。

 金光がその姿を見つけた時、黒い影も彼を発見していた。

 そして今に至る。

 「賭け金は変えなくてもいいのか。俺は800程賭けておこうか。」

 「・・・君。名前は。」

 「名前。ああそうか。盗賊団の連中は名前を付けていたな。まあ俺達にはない。名前なんて結局多すぎるがゆえに忘れた。ひとまずジャックとでも言っておこうか。」

 「そうかジャック。じゃあ来い。」

 金光は戦闘態勢に入る。

 脇を締め、両腕を視界に入る程度の位置に拳を握り持っていく。

 「ボクシング経験者かな。まあ意味はないか。」

 ジャックは片手を顔で覆う。

 すると次の瞬間姿を消した。

 透明化の能力か。

 すると金光の首が切られる。

 「かは。」

 そして血を噴出したとき、背中に激痛が走った。

 ナイフが金光の背中に刺さったのだ。

 「今降参すれば楽に殺せるぜ。まあ決着はついたからな。」

 [Winner jack 830envy獲得。]

 音声が流れ、ジャックの画面の所持envy数が増加する。

 金光の傷は完治した。しかし痛みそのものが体に残る。

 戦闘は確かに防御としてはいい。だが問題は死んだら楽と思えるほどの痛みが体を走る。

 でも。ここで死ぬのはだめだ。

 もう一度。

 「レイズ。コードアリババ」

 ジャックは離れる。

 「懲りないやつだな。レイズ。コードジャック。」

 [賭け金が30envyベッドされました。これより、バンカーを開始いたします。」

 「じゃあ今度も800で。」

 すると金光は距離を詰めてきた。

 ジャックは華麗によける。

 しつこさは人一倍あるようだな。

 ジャックがナイフを振りかざすと、金光はナイフを持った手を手の甲ではじき、軌道をそらす。

 でもやっぱあれだ。ナイフは素人だ。

 兄のナイフ術よりはるかに下回るクオリティ。

 ナイフ一本じゃただの素人だ。

 金光は距離を詰め、腹を連続で殴る。

 ジャックは膝をつき、腹を抱える。

 金光は息が上がっており、呼吸が止まらない。

 「くそが。」

 ジャックは立ち上がった瞬間ナイフで刺しに行く。

 金光は冷静にナイフを握った手を踏みつぶし、そのままジャックの頭を蹴った。

 ジャックは頭を地面に強く打ち倒れる。

 [カウント開始]

 スマホから音声がなる。

 今のうちにナイフを回収しないと。

 カウントダウンが5を切る。

 金光がナイフを回収したと同時にカウントダウンは0となり、金光の勝ちとなった。

 ジャックは起き上がり、金光を見る。

 「もう一回だ。もう一回勝負しろ。次は絶対」

 ジャックの手元にナイフが現れ、それを持つ。

 ジャックが戦闘開始のボタンを押そうとしたとき、前からあるプレイヤーが歩いてくる。

 「見苦しいぞジャック。お前は負けたんだ。その初心者に負けたんだよ。」

 その姿には見覚えがあった。

 あの時の、ドールさんを殺したやつだ。

 待てよ。てことは

 「まったく彼はめんどくさいね。君はまだ盗賊団ではないんでしょ。ならもう盗賊団のメンバーは誰もいないことになるね。」

 「誰も・・・いない。」

 「そう。君がここに来る前にね、リーダーが安全地帯にいたときに、彼女と彼以外はもうとっくに殺しちゃったんだ。まあ仕方ないよね。だって弱いんだから。それにムカついてたんだよね。優しい人間って腹立つからさ。だけどその弱いやつに負けたやつもかなり嫌いだな。」

 彼の視線はジャックに向けられる。

 「俺はまだ負けてない。」

 「全部見てたよ。君は能力を使用していないやつに負けたんだ。初心者狩りをして天狗になってたんだろ。まあでもenvy稼ぎにはいいコマだったけどさ。正直それで満足してぼっこぼこにされてたらさ、正直いらないよね。」

 「なに言って・・」

 するとジョンはジャックに向かって、ショットガンを一発頭に撃った。

 明らかに即死。生きてすらいないことは見てもわかるほど。

 返り血を浴びたジョンは、手の甲で血を拭き取り、ショットガンをしまう。

 仲間を平気で殺した。

 この人、普通じゃない。

 「じゃあどうする。君を殺すでもいいんだよ。あいつ所持envyがすっからかんだったからさ。だから君が持ってるんじゃないかなって。3桁ほどの。」

 やばい。落ち着け。

 金光はナイフをジョンに向ける。

 「戦闘態勢ばっちりって感じだな。じゃあそれで。」

 [コードジョンの戦闘準備が整いました。参加しますか。 はい/いいえ]

 どうする。まだ戦闘について何も知らない。

 でもいいえはだめだ。確実に殺される。

 金光ははいを押した。

 戦闘が開始されたアナウンスと同時に、ジョンはこういった。 

 「もうこの際だ。オールインでいこう。」

 オールイン。

 [オールインに変更されました。行いますか。 はい/いいえ]

 金光は焦る。

 オールインは諸刃の剣ではあるが、この場合話は別。

 相手がオールインを選択した場合、それ以外のプレイヤーは、オールインか退場。

 完全決着をつけるためのやり方だ。

 でもこれしかない。

 「オールインだ。」 

 リーダーが負けたのはこれのせいか。所持envyが多いやつらとの闘いでは短期決戦でこれを行うほうがいい。

 だけどこれは確実に負けだ。 

 能力の相性も、賭けた額も。そして経験値も。すべての要素に天と地ほどの差がある。

 「いいな。それでこそ面白い。」

 バンカーが開始された瞬間、猛スピードでジョンは突っ込む。

 賭けた金額はわからない。でもこれはやばい。

 何もかもが違いすぎる。

 でも降参するか。いや、降参すれば俺は死ぬ。あれは賭け金を払って戦闘をやめた行為。逃げることは不可能か。

 金光は防御する。

 しかし真横の強い衝撃が降りかかる。

 は。

 いつの間に横にいたんだよ。

 「お前。能力使わないのかよ。いや、使えないのか。詳細を知らないからな。」

 金光は地面に転がり、立ち上がった。

 「お。生きてたんだ。まあでも終わりかな。」

 金光の周りに風船が飛んでいる。

 ピエロの顔をした風船が数個浮いている。

 まさか

 「ボン」

 風船はその合図とともに光だし、爆発した。

 とっさに金光は離れたが、もうすでにジョンは距離を詰めてきていた。

 これはかなりいやらしいやつだ。

 「俺の能力は風船爆弾を出現させる能力。ただ威力はお粗末さ。爆発の威力を上げるには、envyを万単位ほど使わないといけない。意外とエネルギー食うだろ。まあでも、あのリーダーを殺したからさ、かなり持ってるんだよな。」

 金光の頭から血が流れる。

 視界もぼやけて、立つのもやっとだ。

 「あとそういえば、あのリーダー仲間が全員殺されたのに心配してたんだぜ。笑えるだろ。」

 この時、金光は頭に血が上る。

 短い付き合い。すこしだけここについて教わっただけぐらいだ。正直死んでもあまりなんとも思わない。

 でもああいった邪悪な存在は、彼の正義感に火をつけるのに十分な材料であった。

 金光は叫ぶ。ふらついて死んでもいいと思っていた自分に腹が立つ。

 ただその苦しさが彼を侵食していく。

 金光は立つ。

 ふらふらと不安定ではあるが、その瞳には強い信念があった。

 金光はナイフを構える。

 「なんだ今更。気合で何とかなるとでも思ってんのか。」

 金光はこの時あることに気が付く。

 先ほどのジャックは虚空からナイフを取り出していた。

 金光はスマホを確認する。

 ジョンはその様子を見ても、攻撃は行わなかった。

 あいつ。気づいたな。

 能力は確かに自覚することが多いが、それができないほどに複雑な場合、情報を買うこともできる。

 能力の詳細。まあでもオールインしていたら、所持数は0だから買うことはできない・・・

 いや、違う。

 あいつは持っていた。 

 オールインは途中のアイテムや権利の購入を防ぐことができる。

 でもあいつははじめから買っていた。

 いや、もらったのか。能力開示の権利を。

 金光はあの時のライターが渡されたときに、ドールから能力開示の権利をもらい受けていた。

 アリババの能力を金光は知ることができる。

 ジョンは気づき、金光に向かっていく。

 「させねえよ。」

 すると金光の姿が消える。

 どこに消え。

 するとジョンの顔面に金光の拳が入る。

 そんなんで通用するか。

 ジョンは体を回転させ、拳のダメージと衝撃を緩和。そしてその勢いのまま回し蹴りを行う。

 すると今度は突風が吹き、場所が変わる。

 草原。もしかしてワープ能力か。

 一瞬の反応の遅さに反応し、金光はナイフでジョンの腹を刺しまくった。

 くそったれが。

 ジョンの周りに風船が出現する。

 その時先ほどの場所に戻る。そして金光はナイフを捨て、手で顔を覆った。

 そしてまたもやいなくなる。

 待て。今のはまさか。

 空中で待っていたナイフは消えていた。

 そして無数の切り傷をジョンの右側につけた。

 金光は姿を現し、渾身の一撃を与える。

 切り傷に響き、ジョンは倒れる。

 すかさず金光はかかと落としをし、頭思いっきり打ち付けた。

 ジョンの顔面が地面に叩きつけられる。

 そしてそのままジョンは倒れる。

 カウントが開始され、金光はジョンから離れる。

 これが、アリババの能力。

 能力の発現と同時に、数個の情報が頭の中にインプットされた。

 そしてそれを使用するときに、俺はそれらの詳細を知ることができる。

 アリババの能力は、インプットされた情報を扱うことができる能力。

 でも問題はそれを発動させるための引き金となる行為が必要となる。

 最初は赤い点のようなものからワープを行っていた。あれはおそらくワープポータルのものであろう。そして次に出したのが、セーフティーエリア。そしてラストがジャックの能力。

 初めはアイテムでの効果であるが、アイテムの詳細や仕組みを知っていればワープは使うことができる。

 次に権利は空間による作用。つまり自身を起点とした空間を作ればよいこととなる。

 アリババの能力は、引き金となる場合の道具やシステムを扱わずにアイテムや権利を使うことができる。だが先ほどのジャックの能力はさすがに能力発動の引き金を知らなければ不可能である。

 ジャックの能力は透明化ではなく、霧に体を擬態させる能力。もし仮に透明であるならば、光の情報は体を通過するため、ジャックは動くこともできないはずだ。

 光を通過させる。言い換えれば光を受け付けなくなるということだ。視界は当然ブラックアウトを起こす。

 そしてその能力の引き金は、手を顔で覆い隠すこと。

 最後にこれを行えてよかった。ありがとうドール。君のおかげで彼を倒すことが

 「調子に乗んなよくそが、」

 カウントが2になったとたん、ジョンは起き上がる。

 傷が一瞬で回復していく。賭け金による身体能力向上か。

 それにジョンの能力の引き金がわからない。風船爆弾を爆発させることはできるが、肝心の風船爆弾の出現の引き金がいまだ不明だ。

 「でもな。お前は逃げると思って、仕掛けておいて正解だった。」

 すると、二人の周り半径1M前後で風船爆弾が大量発生する。

 「爆発の威力は戦闘中賭け金によって作用される。俺からすれば豆鉄砲の攻撃だが、お前からすれば火薬庫に火をつけるようなもんだよ。」

 自爆技。いや違う、オールインをした理由はそういうことか。

 賭け金を多額に積むことで、爆弾の威力を底上げする。そしてその爆撃に耐えるためにはそれ以上の賭け金が必要となる。

 ここまでか。

 ジョンの口が動いたその時、空中から一人の人物が落ちてくる。

 スーツを着ていた青年であった。

 「権能使用。停戦。」

 [権能 強制停止が発動されました。賭け金は全額返金し、バンカーを強制終了させます。]

 すると周りをかこっていた風船爆弾が一瞬にして消え去った。

 「遅れて済まない。あとは任せろ。」

 スーツの彼は金光にそういった。意味は分からなかったが、ひとまずうなづくことしか彼にはできなかった。

 「お前。まさか。」

 「やあ殺人愛好会リーダー。ジョン。少しやりすぎだな。」

 「首無し。」

 首無し?それは彼の名前なのか。はたまた組織の名前か。

 「戦闘を開始させるが、よろしいか。」

 「そんなの必要ない。」

 「ならこちらからもうしでよう。戦闘強制の権利を使用する。」

 [コードジョン。コードベルゼブブ。オールインでの戦闘を開始します。]

 バンカーが開始される。

 風船爆弾が前方にすでに並べられている。

 「ボン」

 迫りくる爆発。しかし風船爆弾は彼の前方で止まる。

 「相性が悪いのを知ってて行ったのか。これを。」

 爆発を止めた。

 金光は能力を使用できないため、ただその様子を見ているしかなかった。

 「おまえ。それはなんの能力なんだ。何をした。」

 「まあひとまず。爆発という餌があるからな。それを食っただけだ。」

 「食った。」

 「ああ。俺の能力は、指に触れたものに対し、その要素を喰らうことができる。そしてそれを拡散させることも可能だ。だから今、空に爆発となるものを拡散させている。」

 上空を見ると、そこには一匹のハエが移動しているところから赤く光った弾が空にとどまっている。

 「まあこれだけあれば、倒せるか。」

 彼が腕を上げ、そのまま下げる。

 その瞬間に空にとどまっていた弾は、ジョンに向かって飛んでいく。

 「俺は。俺は。」

 ジョンにすべての弾が容赦なく降り注ぐ。

 絶えまない爆発は、彼を大きく包み込んだ。

 [Winner Beelzebub]

 ベルゼブブは金光に近寄る。

 「君。名前は。」

 「金光です」

 いきなり名前を聞かれたため、正直驚きが勝った。

 「そうか。俺は暴食と呼ばれている。」

 「暴食ですか。そういえば先ほど首無しという名がありましたが、あれは。」

 「あれは俺の入る組織の名だ。公正と秩序を守るための組織。放浪する天秤。はじめはペンデュラムという名前にしていたが、構成員が全員不明であったからか、ほかのやつらは首無しと言っていた。」

 「そうですか。そういえば先ほどの権能って。」

 「ああ権能か。権能は権利とは違ってenvyで買うことはできない。権能は何かしらの条件を達成しなければ手に入れることはできない。」

 「なるほど。」

 「ほかに聞きたいことはないのか。なければ帰らせてもらう。」

 聞きたいこと。さっきの組織も、彼らとの関係も聞きたい。

 でももう一つ聞かなければならないことがある。

 「中心部にはなにがあるか。そして、王とはいったい何のことを指しているのか。」

 その疑問を聞くと、暴食は動きを止める。

 「中心部は非戦闘エリアであり、物資が手に入る。能力もそこで手に入れることも可能だ。そして君はなぜ、王について聞いた。王はほとんどの人が知らない・・・いや、ポイントから聞いたのか。やってくれたな。」

 暴食は舌打ちをした。王については聞いてはいけないタブーのようなものだったのかもしれない。

 「君はどうしてここに来た。度胸試しでも、夢見にここに来たわけでもない。君が来た本当の目的は。」

 俺の目的。

 「兄が見たここの真相を知りたい。どうして兄の脳は破壊されたのか。」

 「兄?君の兄はここに来たのか。」

 「ええ。調査員としてここにきて、そして無事帰還しました。」

 おかしいな。ここから外に抜け出すには・・。いや、面白い。

 「そうか。なら王になればそれがわかる。王は単に称号だけのものではない。ここでの王は、ここの真実を知る権利があるということだ。もし君が兄の真相に近づくのに一番手っ取り早いやり方は、ここで王になること。覚悟はできているか。」

 彼はまさしく様々な苦難を乗り越える。そう思わせるほどの存在だ。

 「できている。俺はまだ何も手に取れていない。」

 金光は強くいった。

 「わかった。なら入れ。俺の所属している組織に。王になるには個人じゃ限界がある。君は王となる素質を秘めているが、どうする。」

 暴食は手を伸ばす。

 そしてその手を金光は握った。

 「よろしくお願いします。」

 「ああよろしく。そしてようこそ、首無しへ。」

 これは、再起の物語。

 名もなき地で、彼が王として君臨するまでの物語である。

最近アクタージュ買いました。

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