1話 少し面白かったよ、ハンター
ある男が居た。
その男は最強に憧れた。剣や拳などの武術を習った。
しかしダメだったのだ。己の理想には決して届かなかったのだ。周りは天才と持て囃した。
けれどもその男にとっては天才などでは無い。
どれだけ研鑽を積もうとも、目標には決して届かない天才など居て堪るものか。
男は無理なのでは、と絶望を浮かべた。
しかし諦める事など無かった。今此処で諦めてしまったら己のしてきた事は全て偽りになってしまうから。
そして研鑽を積みに積んだ結果、殺された。
嫉妬だった。刺した男は自身がどれだけ努力しようとも届かない高みに嫉妬していたのだ。
最後の最後にそれを聞いた男は怒った。
何故努力をするのを諦めたのだ、と。諦めてしまったら全てが偽りに立ってしまうのに、と。
ムカついたから、そう言った。
その言葉に揺らぐような瞳を見せる男にバカ野郎、と心の中で罵倒を吐いていると、意識は遠くなる。朦朧としてきた。
意地だけで意識を保っているようなものだ。限界など、すぐに到達してしまう。
「っていうのが僕の前世の内容」
「クオン?」
「はは、言っても分からないか」
僕は小さな白狼にそんな話をする。
僕の過去話だ。最強になりたかった愚かな男の話。
本当に愚かだと思う。くだらないと思う。死んで、転生した後も最強の夢を抱え続けてるのだから。
まあ、そんな僕を僕は誇りに思ってるけど。
僕がそんな事を考えていると、ガサリ、と草を踏む音が聞こえる。先程から探知していた人の気配だ。
格好からしてレアか魔物を探すハンターだろう。
此処ってハンター多いよね。レアな魔物が多いからそれに比例して増えてるんだよね。
一応この場所は立ち入り禁止領域の禁忌なんだけどなあ。
欲望に弱いのは本当に人らしいよね。
僕も人の事とか言えないんだけどさ。最強になりたい、っていう欲望に負けてるから。
背後から風切音が聞こえてくる。
邪魔な僕を殺すつもりであろう。思い切りは良し、だけどそれは善策とは言えないよ。
愚策って言っても良いんじゃないの?
その証拠に僕に迫ってきていた武器が弾かれる。
その隙、大きな命取りになるって知らないかな?
僕はそのハンターに向かって手を翳す。魔術でも何でも無い、ただの魔力衝撃。
才能というのは本当に罪が深い。
才能という一定の値のみで此処まで実力が離れてしまっている。本来実力が離れていないと効かない魔力衝撃が通常よりも遥かに強力となって効いている。
「ねえ、大丈夫?」
「餓鬼が……よくもやりやがったな」
男は槍に魔力を纏わせる。
しかし妙だ。通常の魔力を纏わせるのとは少し違う。
……なるほど、強化幅が違うのか。僕にとっては些細な違いだが、何とも面白い魔術だね。
多分だけど、これはその一家だけか教えられる家系魔術だね。何でそんな家系魔術の使い手がハンターをやってるのか分からないけど。
男が槍を構え、僕に向かって穿つ。
どんな構造をしているのか、少し試したいね。
その槍が当たる前に僕を中心とした魔術を展開する。
なーるほど、これは僕が思っていたよりも面白い魔術だ。
こんな人間が使い手だなんて、少し勿体無いね。
僕は防御魔術の上からその魔術を展開し、男の頬に当てる。
やっぱり弱いね、この人。強いハンターだったら自分と同じ魔法を使われても動揺なんかせず、即座に再び攻撃を開始するのに。
「どんな気分?自分の家系魔法が使われた感覚は」
「餓鬼、お前どうやった。何をした。お前、俺の一族のもんか?」
「違うよ、僕は君の一族のものなんかじゃない。ただ、解析をしてコピーをしただけだよ」
今度こそ男の顔は驚愕に染まる。
まあ、自覚はあるよ。魔術というのは研鑽に研鑽を積んで習得できる地点だ。
それを僕は全てを吹き飛ばした。研鑽の部分を消失させたのだ。分かるかい?これが上だよ、これが上澄だよ。
少し面白かったからね。
ちょっとだけ、僕の本気を見せてあげよう。
魔術を展開し、放射する。僕は優しい、君が理解できるように、遅い速度で撃ってあげるよ。
男はその魔術に気付き、回避を開始する。
やっぱり君、決断力はあるけど策を考えるのは絶望的に向いてないよ。
「魔術って可能性の塊なんだよ」
僕は口を開き、そんな言葉を口にする。
今の魔術使いは魔術の使い方が全然なっていない。
固定概念に凝り固まりすぎているのだ。誇張抜きに言っても魔術の可能性は無限大だ。
発動した後、形を変えられないと思っている。発動した魔法を追尾できないと考えている。
その考えがダメだ。
一部の魔術使いはそれがわかって治してはいるけど。
外れた僕の魔法は上空に収束していく。
「少し工夫をするだけでこんなにも変わるんだよ?冥土の土産に教えてあげる」
『骨花閻羅獄』
「君、弱かったけど楽しめたよ」