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生贄料理屋

作者: ミユキシロ

ジャンル異世界恋愛にしてますが、恋愛して……ないですね。

こんなタイトルですがホラー要素はありません。

 むかーしむかしの話だけれど、人が住んでいるこの国は元々植物が育ちにくくて暮らしていくには過酷な環境だったらしい。


 更に気を抜けば辺りに住む魔物の餌になってしまう。


 だけれども人々は団結し知恵を絞り、そこに家を建てて土地を耕し環境を整えていった。


 そして生まれたのがこの国『シチュラレード』。


 だが、過酷なのは環境だけでなく気候や災害も然り。何度も洪水や嵐、地震などにより町は崩壊しては再生をするという歴史を繰り返してきた中、現れたのは後に伝説と唄われる53代女王『トゥーラ』。


 彼女は稀代の魔術師で、この世界の神々と対話が行えたらしい。

 そして、彼女はこの国の安寧とともに一つの契約をした。


『この国を加護する魔獣を遣わしてもらう代わりに定期的に心を込めた供物を捧げ魔獣に感謝をすること』


 最初は半信半疑だった国民たちだが、それからというもの災害はピタッと治まった。

 人々はこれは本当のことなのだと喜び、それから何百年たった今でもその習慣として『生贄料理』を守護しているという魔獣に捧げている。


「そして!その生贄料理を扱う店こそ我が店『ジェーノ』なのだ!わかったかサフラ!」

「んー……」

「聞けよ!!」

「何回も聞いたしぃ。おじーちゃんの話長いんだもん」

「今となっては廃れつつある生贄料理屋……ついに……ついに家のみとなってしまった」


 シチュラレード王国建国の歴史とともに語られる守護魔獣の話、今となっては生贄料理屋が売上のために作ったというフィクションだったというのが人々の見解だ。


「生贄料理っていうのも実は森の魔物に与えて人々を襲わせないための料理ってのが本当なんでしょ?」

「何を言っとるかぁ!ワシは小さいときにちゃあんと見たんだ『魔獣様』をな!」

「いや、それ絶対夢かただの魔物か獣の見間違いだから」


 『生贄料理』が向こう100年に残したい料理100選に選ばれたのは遥か遠い昔の話。

 昔は100軒以上あったと言われる料理屋も先月一件が閉めてからとうとう『ジェーノ』だけになってしまった。


「ワシは見たんだ。青く金色に輝く魔獣様を……」

「青色なの金色なの?」

「青くて金色だったんだ!その魔獣様にワシの料理を捧げられるとはなんと光栄か」

「はぁ……光栄ねぇ?昔は沢山あったって噂の国からの支援金も今じゃ年にたった3万プーカよ!それなのに毎週裏の森の社に料理を捧げるとか赤字もいいところなのよ!」


 国を守護する魔獣に捧げる役目を担っているというのにもかかわらず、『生贄料理』に国はどんどんと予算を削り今ではないに等しい状況。普段はただの料理屋として生計を立てている。


「エルリカとフーガが材料は調達してくれているんだ。料理屋の方は儲かっとる……」

「はぁ……ならいっそ料理屋だけにしない?私の給金もあげてほしーしさ」


 サフラは16歳。学校に通いながらこの店でバイト中だ。母のエルリカと父のフーガは、農業の傍らで魔物や害獣の討伐も請け負っている。野菜と肉はそれで賄っているのだ。


「それはならん。料理を捧げる役目は絶対だ。ワシらがやめたらこの国は大変なことになるぞ」

「ハイハイ」

「それに給金を上げてほしいなら、そろそろ料理の方も」

「あっ!いっけなーいゴミ捨てに行かなきゃだったわ〜」

「なっ!!サフラ!!」

「いってきまーす」

「コラァ!!お前が継ぐしかないんだからな!!さっさと料理を覚えんかぁぁ!!」


 祖父の叫びを無視しながらサフラは逃げ出した。彼女はこの店を継ぐ気などサラサラないのだ。


(私はもっとキラキラした大人になるんだもーん)


 だが、そうも言っていられない状況に陥る。


 2か月後。


 祖父が突然亡くなった。




「サフラ……大丈夫?」

「……うん」


 火葬を終え、母と祖父の住んでいた料理屋の2階に上がった。

 祖父は母の父にあたる。ここは母が生まれ育った実家だ。


「母さん……お店ももう終わりだよね」

「そうね。……私には生贄料理の才能が無かったから……もうお店も閉めないとね」

「えっ……才能……」

「生贄料理には適性があるのよ」


 母は料理上手である。そんな母ですら才能がないとは、どれほどの才能がいるのだろうか。


「なにそれ……おじいちゃん、私に店継げとか言ってたくせに……元から無理だったんじゃん」


 サフラの言葉に母は驚いた顔をした。


「サフラ……あんた……継げって言われたの?」

「ん?うん。……ただの冗談だったみたいだけどね」

「おじいちゃんはそんな嘘付かないよ」

「は?私、料理なんてしたことないんだけど」

「ちが……生贄料理に必要なのは」


 ガシャーーーーン!!!


「「?!」」


 ゴロゴロゴロ………。


「母さん……今の雷?」

「そうみたいね……こんな時期に珍しい……」


 この国に雷が落ちることは年に一度。時期も決まっていて、春を告げる初雷のみだ。

 今の季節は夏である。雷が落ちるわけがないのだ。


 ザーーーーー。


「雨ね」

「しかも、こんな豪雨……私見たことないよ」

「私もよ……生まれて初めてみたよ」

「母さんもなんて……すぐ止むよね」

「だといいんだけど……」


 しかし、2日たっても3日たっても雷雨は止まなかった。

 降り止まぬ雨によりあちこちで川が氾濫し被害が起こり始めていた。


『降り続く強い雨により西側のハノス川が氾濫し……』


 映像魔具(テレビ)からは、各地の被害状況のニュースが流れてくる。


「今度はハノス川か……」

「父さん、ここは大丈夫かな?」

「分からんな。だが何故か他の地域よりは雨がマシのようだな」

「うん……」


 外は雷が鳴り響きずっと雨は降り続いているそれでも、この辺りで何か被害があったとはまだ聞いていない。


「うちの町に避難してきた人もいるみたいね」

「そうなんだ」

「避難してきた人がこの辺りは被害がなくていいねって言っていたわ」


 一応まだ食料もあるので、1週間位はどうにか過ごせるだろう。

 だが……。


「この雨……止むよね?」

「えぇ……そうならないと」

「そうだな」


 だが更に5日が過ぎても雨は止む気配はない。各地の被害は広がる一方だ。

 その中で唯一この町には大きな被害は起こらず避難民がどんどんと増えていっていく。


 ある夜。

 サフラは夢を見た。

 死んだ祖父から『生贄料理』の話を淡々と聞く夢だった。

 あの頃の日常の普通の夢。


 夢の中で祖父は言った。


『ワシらが生贄料理を捧げることをやめたらこの国は大変なことになるぞ』


 ゴロゴロゴロ……ザーーーーー。


「……」


 サフラは、雷雨の音で目が覚めた。


「……おじいちゃん…………」


 この雨で学校はずっと休みになっている。外が暗いので時間もよくわからない。

 得体のしれない不安でもう寝付けそうにもなかった。

 時計を見ると明け方の5時だった。

 1階のキッチンからは小さな音が漏れ聞こえる。もう父が母が起きているのだろう。


 1階に降りると両親が共に起きており、二人でテーブルを挟んで向かい合って座っていた。


「おはよう」

「早いのねサフラ。おはよう」

「ねぇ……私、おじいちゃんの夢見たんだ」

「そう」

「それでね……この雨……止めれるの……私だと思うの」

「は?何を言っているんだサフラ」


 父は訳がわからないという顔をしているが、母は落ち着いた表情のままだ。


「母さん、私に作れる料理って何かな?」

「そうね……」


 ザーーーーー。

 ザーーーーー。


 雷雨は止まることがなくずっと降り続いている。このままだとこの国は水没するに違いない。


 サフラと母親は祖父の店へと向かった。

 作るのは『シチュー』だ。


「サフラが全部一人で作らないといけないらしいから」

「そうなんだ」

「うん。昔、私が手伝おうとして怒られちゃったんだよね。これは才能がないとダメだからって」

「ねぇ、その才能って何?」

「ん?魔力よ」

「は?」


 魔獣に捧げる料理は特異な魔力を持つもののみ作れる。

 この世界には魔術師もいるし、魔法も存在しているが、その力を持っていない人間もいる。

 更に持っている人もそれぞれに特色があり、魔獣に捧げる料理はその中でも特殊な人のみが持つ。


 それは血脈で継承されるが血が薄れてきている現代は、子に継承されないことも多くその為に生贄料理屋は閉めなければいけなくなってきていた。


「特殊な……魔力……って私魔術つかえないんだけど!」

「あら、おじいちゃんもよ?生贄料理を作れる人は料理をするときのみ魔力を扱えるの」

「……そうなんだ」


 更に生贄料理を作れる魔力は、同じ魔力を持つものでないと感じ取れないらしい。

 だから、祖父しかサフラの事を知らなかった。


「だから……生贄料理……」

「へ?」

「生贄は、魔力をもつ料理人……つまりサフラ……あなたよ」

「はぁ?!生贄が料理するから生贄料理なの?!」

「そういうこと。あなたはこれからずっと生贄として魔力のこもった料理を捧げ続けなければいけないのよ」


 何と言うことだ。

 今からしようとしている事は自分を縛るようなことらしい。


「やめる?」

「やめない」


 それでもサフラは決めた。別に何を守りたいとか、使命感などではない。

 ただ、日常を取り戻したいだけだ。


 学校に行って友だちと話したい。

 休日は何処かへ遊びに行ってもいいし、両親の手伝いをするのもいいだろう。

 もう祖父とこの店を切り盛りすることはできないが、楽しかった思い出は楽しかったまま残したい。


 だから。


「ところでどうやって魔力使うの?」

「えーとね。特殊な器具があるはず……」


 母はそういうと調理場の棚をガサガサとし始めた。


「あ、あったあった!」


 出てきたのは瑠璃色をした料理器具たち。

 それをサフラが触ると。


「わっ!何か……何か体から流れてる感じするよ!!」

「凄いわ……私だと何も感じなかったのに……」


 瑠璃色の謎の調理器具でサフラは母に指導されながら料理に取り掛かった。


 そして………。


 コトコトと煮込まれるシュー。野菜は歪だし、小麦粉が足りなかったのかミルクが多かったのかとろみが足らなくてシャバシャバしている。 

 それでいて味見をすると塩と胡椒は十分で、これ以上は味はいじれない気もする。


「母さん……これ味見……」

「あ、ごめん。魔力入っちゃったものは食べると酔うから……」

「……」

「味とかじゃないから!心を込めて作ることが大事だから!!」


 だったらせめて視線を合わせてほしいとサフラは母に対して思ったが、ずっと面倒くさくて料理から逃げていたのは自分だ。


「……じゃあ行って来る……」


 ザーザーと降りしきる雨の中、盆に蓋をしてサフラは社へと向かった。


 社へも料理人だけが捧げに行けるらしい。


 裏の森をしばらく進むと社が見えてきた。


 サフラは全身ビショビショになりながらようやく到着した。


 すると自然と社の観音開きの扉が開く。


 中には不思議な空間が広がっていた。そこに料理を捧げろということなのだろう。


 サフラが料理をその中に入れると、すーっと中へと消えていった。


「わっ……何それ不思議!!……って……え?」


 あれだけ降っていた雨が小振りになってきている。少し離れた空には光がほんのり差し始めている場所もある。


「何……それぇ」


 やはり原因は生贄料理だったらしい。

 確かに祖父が亡くなってから少しして雨が振り始めた。

 祖父は何だかんだでこの国を守っていたのだ。


「はぁ……これが毎週かぁ……」

「ため息を付きたいのはこっちだ!!このメシマズ!!」

「ふぁっ?!」

 

 いきなり背後から罵られてしまった。何かと思い振り返れば……。


「わぁぁ!!トラ?!」

「そうだ。俺がお前たちの国を守護している魔獣『ディティル』だ」


 祖父が言っていたように確かに光っている。青と金が混じったような謎の発光だ。

 だが、祖父が言っていたよりはそこまで輝いてはいないようにも思える。やはり話を盛っていたのだろう。


「あー、えーと、ディティル様?お食事は食べられたんですかね?」

「あぁ食ったわ!ちゃんと魔力は混じっとったが……味が最低だった!!ガブスはどうした!」


 ガブスとは祖父の名前である。


「祖父のガブスは亡くなりました……私は孫娘のサフラです」

「何ィ?!とうとうガブスも死んだとな!……ならばこの国の守護も終わりか」

「は、はぁぁぁぁ?!私がいるじゃないですか!!わ・た・しがっ!!」

「黙れメシマズ!!」

「モラハラ発言やめてよ!!」


 100年前なら男尊女卑やモラハラ発言もまだ許されたかもしれないが、現代においては許されざるものだ。


「モラ……ハラ?」

「モラルハラスメント!!なんかこう……相手の尊厳とかプライドとかをこう……なんか打ち砕くみたいなそんな感じのメントよ!!」

「何だそれは?お前の料理が不味いのが問題だろう」

「ぐっ……だって……は、初めて作ったんだ……から……」


 その発言にディティルは驚いた顔をした。


「ほう……ならばまだ改善の余地ありだな……」


 そう言うと、ディティルはふわっと浮かび上がりカッと眩しく輝いたと思えば人間の姿でそこに立っていた。


「え……」


 しかもイケメンである。大切なことなのでもう一度言おうイケメンである。


「とうとうこの国の生贄もお前一人になってしまったようだしな……しばらくお前の料理の腕前が上がるのを側で待つとしようか」

「はい?」

「改善されなければもうこの国の守護はやめて、魔獣の国に帰るからな!そうなればここは災害大国に陥って滅ぶであろう」

「え、えぇーー?!」


 確して、生贄料理人となったサフラは守護魔獣の為に料理をひたすら作ることになった。


 2人が恋に堕ちるかどうかは……まだまだ先の未来でしかわからない。

拙い文章を読んでいただきまして、ありがとうございました。

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