異世界修繕魔導部 特務部隊
異世界修繕魔導部 総司令部では緊急の警報が鳴り響く。
「総司令官、02-Mー009地区で時空の裂け目が発生しました! 規模未確定」
「追跡開始、直ちに第八出動。流出が起こる前に修繕させろ」
「了解」
異世界修繕魔導部 総司令官アーロン・クロス・リグレッドは次々届く厄介な報告に眉間のシワを深くする。ここの所、時空の裂け目の発生件数が明らかに増えている。異世界に渡る転移術式は国で厳重に管理されているため、そちらから漏れたとは考えづらい。国の機関に問い合わせた所、流出の形跡はないとの返答があり、増え続ける時空の裂け目の発生件数に頭を抱えるアーロンの元に、”解析”の依頼が来たのはそんな頃。
本部に持ち込まれた犯罪組織から押収されたという魔導具をアーロンが解析をした所、お粗末な出来ではあるものの、時空に関与する魔導式が埋め込まれていることが分かった。異世界の”いつか””どこか”に逃げ込む事が出来る魔導具は一回使ったら壊れてしまい、こちらに戻る事は出来ないという片道切符で、何とも不完全極まりない粗悪品だった。
この魔導具が最近の時空の裂け目の発生件数を増加させた原因である事は明らかで、すぐさま国に報告を上げ、違法魔導具取締局によって製作者の魔導具師は逮捕。粗悪品を密売していた組織は摘発されたものの……時すでに遅く、違法魔導具は出回ってしまった後だった。取り締まりを強化し特務部隊でも回収に勤めたが、突発的な時空の裂け目発生が今だに起こっている事からも、回収しきれていない物がまだあると予想される。
「総司令、第八より報告です」
「あぁ、つないでくれ」
副司令官が第八部隊 隊長の念話をつなぐ
『報告します。02-Mー009地区に発生した時空の裂け目の修繕は間もなく終了。違法魔導具を所持していると思われる密輸組織は逃亡、あちらに流れたようです。魔導式の残滓から座標確認』
『すぐに第三を派遣する。第三の副官に座標を伝えてくれ。後の者は速やかに修繕を』
『了解』
”異世界修繕魔導部”には、実際に現場での任務を担う特務部隊が第一から第八部隊まであり、各部隊によって特徴・適性が違う為、任務によって派遣される案件が異なる。基本的に異世界に実際に渡って実務をこなすのは隊長の”クロス”。異世界を行き来するための枢の解錠、時空を追跡し念話をつなぐオペレータ役の副官。隊長を補佐する役目を担う隊員が三~三十人程で一つの部隊が構成されている。
第八部隊は時空の修繕を得意とする部隊で、修繕魔導師の隊員が多く所属しており、特務部隊の中でも一番人数が多い部隊だ。反対に第三部隊は少数精鋭で、隊員五人という少なさだがその能力の高さは特務部隊でも一目置かれている。
「第三につなげてくれ」
「了解」
特務第三部隊 隊長を務めるエルド・クロス・リグレッドは、アーロンの息子で歴代の”クロス”の中でも魔導術式開発に関して類稀なる才能を発揮し、”稀代の魔導師”と言われている。そんなエルドが直々に選抜した第三部隊のメンバーは、紅一点の副官アイリーン、補佐官のジョセス、マティアス、レオルドの三名からなる。
それぞれが個性的で少々クセが強いものの、その能力の高さは同年代の魔導師からも群を抜いているのは確かである。それ故、やっかみもあり、口さがない者達からは奇人変人集団と陰口を叩かれる事も多かったが、本人達は至って気にした様子はない。
「総司令、第三隊長と繋がりました」
『エル、出動要請だ。至急流出者の回収に向かってくれ』
『了解』
”枢”に急ぎ向かっているであろう息子にアーロンは任務の詳細を伝えた。