任務六日目 帰還
男をあちらに強制送還した後、エルドは男のやらかした全てに関する後始末に追われていた。娘達の記憶に関しては、エルドと交代で、第二部隊 隊長『忘却の魔導師』リアが派遣される事になっている。思い出したくもない男の記憶も綺麗さっぱりと忘れさせてくれるだろう。
あらかた片付けが終わり、島が元の姿を取り戻した頃にはすっかり朝日が昇っていた。
「これにて任務完了」
エルドが補佐官達に告げると、三者三様の反応が返ってくる。
「うはぁ~くたびれた~。帰ったら俺は絶対寝る」
「この体ともおさらばか。名残惜しいな」
「隊長、今回の収集品は持ち帰りますか?」
「そうだな、きびだんご、衣類、刀は持ち帰ろうと思う」
終ぞ食べる機会を失った大量のきびだんごは、研究資料として持ち帰ることにした。
こちらの方が魔素量が多い事もあり、あちらから何かを持ち出すよりも断然抵抗が少ない。但し、時空間を異物が通過することに変わりはなく、発現場所には爆風が起こり、甚大な被害をもたらしてしまう。その為、”クロス”が研究資料としてこちらの物を持ち帰る場合は、異世界修繕魔導部にある完全防備された施設内の座標に確実に転移することが決められている。
『リン、聞こえるか? 皆を帰還させる』
『了解。離脱まであと三十秒です』
エルドが憑依魔導式を解除すると、光に包まれる補佐官達。
「それでは隊長、お先に失礼します」
「隊長、俺の体ちゃんと元んとこへ返してやってくださいね。頼んます」
「隊長、お疲れっした。お先です~」
『離脱完了。補佐官三名、無事帰還しました』
『後始末をして、一時間後に帰還する。収集品が数点あるので第六部隊に連絡を頼む』
『了解』
リンとの念話を終了すると、大活躍してくれた獣達の首輪を外す。
「お前達も、ご苦労だったな」
それぞれを、元いた場所に送り届ける。
一時間後、島に戻ったエルドは身につけていた、刀、きびだんご、衣装を転移の魔方陣に乗せた。
『リン、エルだ。準備はいいか?』
『”枢”にて第六部隊 隊長含む三十名が防御壁を展開完了しています』
『三点の研究資料を転移する』
『了解』
『よし、皆、来るぞ! 気合入れていけ! うぉ~~~~~~!』
第六部隊の補佐官達の雄叫びが聞こえて来る。第六部隊は、異世界研究を行っている隊長を慕う防御壁の魔導術式を得意とする熱き漢達が集結した部隊だ。 他部隊が研究品を持ち帰る時は、もれなく肉壁として召喚される。
研究品を転移した後、裸のエルドは三角座りの状態で術式を発動させる。防御膜の泡がエルドの全身を覆っていき、エルドがすっぽり入る球体状の防御壁が完成する。
『リン、準備完了。帰還する、解錠を頼む』
『解錠は受理されました。枢の開閉まで、5・4・3・2・1・0』
球体は魔方陣に飲み込まれるようにして消え、島は完全に元の平和を取り戻した。
パシンッ
卵の殻が割れるように防御壁が弾けると、エルドは凝り固まった体を解すように伸びをした。
「エル! お帰り~」
「ぐっ」
帰還した裸体のエルドに飛び込んできたのは、隊服の上に白衣を着た第六部隊 隊長リドリー・クロス・リグレッド。
「ドリー。離せ、まずは服を着させろ」
アーロンの年の離れた妹である叔母は、少々マッドサイエンティストな残念美女で、エルドの姉のような存在だ。
「凄いんだよ。”歪み”をね、解消出来るかもしれない。エルのおかげだよ。ありがとう」
「ドリー隊長、第三の隊長がお困りですからその辺で」
「あぁ、そうだね。エル、では私は研究に戻るよ。君が送還した彼にも効果があるといいんだけど」
第六部隊の副官はエルドにぺこりと頭を下げると、リドリーを連れて枢の部屋を退出していった。
エルドが持ち帰った”きびだんご”に含まれる命の属性成分が、長年頭を悩ませてきた”歪み”を解消する手立てになるかもしれないと判明し、その後、恙なく新薬は開発されていった。




