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翻訳傭兵の旅物語  作者: おたま
5/11

青き海にて

船上である。船旅である。


アルバスから出港して1時間。


エルゲ海の青い海を一隻の船だけが白い波を立て航行していた。

俺はその船上にいる。俺は慣れっこだがここまで強い潮の匂いはアリシアには少々きついのか「うえ~」と声を出している。部屋に入れば多少はマシになるのに…。


「カルロさん。ここ、…『臭い』です。下、あ~……『行きませんか』?」


「先行ってて。ちょっとやることがあるんだ。下に画材とかは準備してあるから好きに描いてていいよ。」


そういうとアリシアは「む~」と言いながらふくれっ面をする。

今のアリシアはこの世界の言語を少しだけ話せるようになっていた。

2週間で会話が成り立つ程の言葉を覚えるのは普通じゃ考えられない学習スピードだ。挨拶などの基本的なフレーズはすぐに覚えて使っており、まだ難しくて言えない言葉は元々の言語で話している。

どんなに難しくてもアリシアは覚える努力しており、頑張っているのがよく分かるので思わず頭を撫でまわしたくなる。


「よし、今日やることは終わったな!最後にカルロ。もう一度アリシアと一緒に船倉にある物資の確認に行ってくれ。」


「わかりました。アリシア下に行こう。」


『下ですね?わかりました!』


アリシアはそういうと俺の手を引っ張って船倉へと向かう階段に突撃する。


「わわ!危ないって!」




何度か階段で転びそうになったが、何とか怪我をせずに船倉に着いた。

船倉には主に食料や交易で得た物品などが置かれている。


今更ではあるが、もう一度確認しろということらしい。


ここでもまたアリシアは目を輝かせており、周りの物を突っついている。


「アリシア。ここのものは大事なものだからな。つまみ食いするなよ~。」


そういうとアリシアはビクッ!と体を逸らした。つまみ食いする気だったのか…。



さて、あらかた確認し終えて、周りを見渡してみるとアリシアがいない。



周りを見渡すと、船倉の端っこに白くて長い髪がちらちら見える。


「アリシア~。大丈夫かぁ?」


アリシアは鼻歌を歌いながらそこにある妙に古めかしい宝箱を開けようと頑張っていたのだ。


「カルロ!…これ!これ!…『宝箱』!『気になる』!」




「よいしょっと。」


俺も宝箱が気になったので船倉から部屋に持ってきて机に置く。宝箱には鍵が掛けられていたが、風化しており、剣の柄でたたくと鍵が落ちた。


『なにが、入ってるんですか!?』


アリシアが覗き込むように見てくる。


「なんか見つけたんだって?」


「アベーラさん……。なんで知ってるんですか?」


「そりゃお前。アリシアちゃんのうれしそうな声は船内に響いてるぞ。」


「そういやそっか……。」


「お前。案外抜けてるところあるよな。…それにしても、古い宝箱だなあ。この船は新造のキャラベル船だ。俺が物資を運搬の管理もしていたが、こんな宝箱は見たことがないぞ。」


宝箱の見た目は俺が今まで見た事の無い物で。ふざけたことを言っていると思われるかもしれないが、絵本などに出てくるような宝箱に見た目が近い

かなり古い物なのか、軽く撫でた程度で大量のほこりが手にくっつく。

宝箱には罠が仕掛けられている場合があると以前仕事の際に『冒険者』から聞いたことがある。

よく観察して安全かどうかを確かめてから開けようと思った時だった。

『はやく!開けましょうよ~!!』


「あ!ちょ!まっ!」


アリシアが机の上に置いた宝箱を意気揚々と開ける。幸いにも罠は仕掛けられていなかった。


3人で中を見ると灰であった。


困惑しているとアリシアが灰の中に手を突っ込む。まだ何があるか分からないのまた無鉄砲に手を出して…。

手を引っ込ませようとすると何かをつかんだようで、満面の笑みで俺たちに向いた。


「これ、なに?」


そう言って両手で見せてきたものは紙切れ。どうやら灰の中に一切れだけだが紙切れがあったようだ。

紙切れだけではアリシアが何を聞いているか分からないと思うが、その紙切れには文字が書いてある。

きっとアリシアはこの文字が何と書いているかを聞いているのだろう。


書いてある言葉は

『『防風』は失敗した。我らの故郷。我ら『時の女神』は聖地にて眠る。願わくば千代の後に。』

と書いていた。


「これ、は……。」


「アベーラさんわかるんですか。」


「いや、なんと書いているかは分からないけれども、この文字は見たことがあるぞ。これは、『第二ウィンター語』だ。」


第二ウィンター語。北にあるアポーマー時代からある『スノーエルフ』の国。『ウィンターフォール皇国』の言語だ。

ウィンター語には第一ウィンター語、第二ウィンター語、現代ウィンター語と分けられており、この文字の書き方は第二ウィンター語なのだそう。


時代的には『氾濫戦争』後に建国された各民族の平等を謳った第二の覇権国家『奴隷フィア連邦』建国から第三の覇権国『統一帝国』崩壊までの約600年間にわたって使用された文字なのだそう。


第一ウィンター語は『スノーフォール皇国』独立から『大アポーマー帝国』崩壊まで。

現代ウィンター語は『王国』と『帝国』建国から現在まで使用されている文字だ。


「600年間使用はされてはいるが文字として現存している書物は少ない。当時は皇国内で内乱があったそうだからな。今では語りたくもない時代として当時の資料は焚書されたらしいぞ。」


なるほど。この文章にはなにかまずい真実が書いていたのかもしれない。


「『防風』は失敗した。我らの故郷。我ら『時の女神』は聖地にて眠る。願わくば千代の後に。』どういう意味ですかね。」


「『防風』は英雄ベルハルザだろう。失敗は分からないな…。そんな描写は見たことがない。だろう?カルロ。」

俺はうなずく。『防風』ベルハルザは『氾濫戦争』時の英雄で単身で当時のアポーマーの首都であった『アルバス』に乗り込み同都市を制圧した人間族の最強の英雄だ。

その英雄が失敗したということはアルバスを制圧していないということなのだろうか。


…なにかまずいことに足を踏み入れている気がする。


「……カルロ。命令だ。この灰の時を戻せ。」


「…!アベーラさん!それは…。」


「大丈夫だ。保証はある。それに……。気になるだろ!歴史の謎っているのは男のロマンだ!」


上司命令だ。素直に従おう。それに俺も少し気になるのは内緒だ。


意識を集中して、灰を指でつかむ。


体の中を意識して『時戻し』を発動した。

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