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翻訳傭兵の旅物語  作者: おたま
2/11

アルバスにて

コン、コン、コン。


「カルロさん。おられますか?」


……ついたか。


船の中で揺れを感じ、意識が現実に戻る。本を読んできたときにノックの音が聞こえた。入室の許可を出す。


「カルロさん。アルバスに着きました。」


『あぁ。ありがとうございます。』


促され階段を上がり、船上に着く。まず白い大理石で作られた荘厳な教会群が目に付く。白い教会に自然豊かな情景はとても美しく『エルゲの白い宝石』と呼ばれている。


聖都『アルバス』。

今は世界を二分する宗教である天使を信仰している『ゼファラス教』の聖地であり、『教皇国』の首都だ。

世界で最も古い歴史を持つ都市で、1000年前のアポーマーの国家。『大アポーマー帝国』の元首都だ。


エルゲ海の真ん中に位置するラティアム島にこの都市はある。アポーマーの時代から荘厳な教会群は建設されており、当時のまま残されている。変わっている点は城壁がすべて撤去されていることくらいか。


都市を囲むように3つの塔があり『黄金の塔』『漆黒の塔』『白銀の塔』と呼ばれている。


黄金の塔はアポーマーの繁栄を意味し、漆黒の塔は彼らが信仰していた宗教に由来するものだという。

アポーマーの信仰していた神はどこにも記載がなく後世の歴史書にはただ邪神と書かれているのみだ。


そして白銀の塔は『氾濫戦争』時に最も活躍した英雄の一人である防風『ベルハルザ』の追悼を込め建設されたものだ。白銀の塔一階には巨大なベルハルザの像があり、伝承の如くアポーマーの死体の山で仁王立ちしている場面が再現されている。


その光景を眺めていると上司であるアベーラさんがやってきた。


「ついたな。いつも道理、きれいな景色だ。」


「ええ。いつ見ても見飽きませんね。」


「そうだな。じゃあ、いつもの顧客が相手だ。香辛料と儀式用の薬草。運ぶの手伝ってくれよ。」


そう言ってアベーラさんは商品のところに向かっていく。

自分もついていき、商品の運搬を手伝う。




交易も通訳の仕事も無事に終わり私達二人はアルバスにある協商同盟宿舎にやってきた。

 

 

「お疲れだったな。カルロ。キャンベラ船の準備は早くて2週間必要だ。それまでは休暇扱いにする、ゆっくりと過ごしてくれ。」


お酒を一人呑みながらアベーラさんはそう言う。

我々の仕事は主に交易で、目的地について船の補充が完了したらすぐに踵を返して同じルートを戻る。

その後に3週間位のまとまった休暇だ。


このキャンベラ船は頑丈で特に修理の必要もないし消耗品や食糧の補充だけで十分だろう。



「ありがとうございます。」



「……。うん。よし。戻っていいぞ。」


そう言われたので休暇に向かおうとする。…何をしようか。


「あ、そうだカルロ。酒を買ってきてくれないか?もう切れそうでな。それと、ついでに散策してこい。いい予感がするからな」



「……分かりました。」



そう言って俺はドアを開け、協商同盟所属の商店に酒とつまみ、水を買いに行くのだった。




さて、買ってきた物をアベーラさんに届けて今はフリーだ。

何をしようか。と、言ってもアルバスは何度も来ており、主要な観光地など見慣れている。


ゼファラス信者であれば巡礼もありだが、俺の信仰している宗教はない。


巡礼もしないのであればやることなど何もないので、取り敢えず本でも買いに行くか。と広場を抜け階段を上がり本屋に向かっていた途中のことだ。


『どなたかおりませんか〜〜!すいません〜〜!』


と甲高い声がする。


興味に惹かれ、声の方に向かってみると木に引っ掛かっている女の子がいた。15、6位の歳だろうか。白く長い髪のこれまた美しい子だ。


あんな美しい子なら下心がある男でも助けていそうではあるが周りの人はその声が聞こえていないのか、少女の横を通り過ぎていく。


なぜ通り過ぎているのかと疑問に思い少し観察してみたのだがあの少女は少しおかしい。


まず、目を凝らしてみると少女の体にひっつくように淡い青い膜のようなものが見える。


あれは『幻術魔法』の一つである『透明化』であろう。


昔、獣人の国である『エネサーブ首長国』で『透明化』の下位互換である『消音』を見たことがある。その時は足だけに淡い青の膜があったが、今回は全身にあるように見える。

『透明化』なら周りの人もスルーするのは理解ができる。


それに、少女も服もボロボロだ。とても汚れており、所々が破れている。言語も聞いたことがない。俺のスキルの『翻訳』のおかげで理解はできるが、普通の人には何語かもわからないだろう。


俺のスキルの一つの『翻訳』は文字道理のスキルだ。『大陸』のすべての言語を理解し会話することができる。俺の耳にはそのままの発音で聞こえるのだが、頭の中で(こう言っているんだな。)と理解ができるのだ。

このスキルのおかげで戦争孤児として野垂れ死ぬだけだった俺だが、誰かに見出され今ここで協商同盟所属の『翻訳傭兵』として生活できているのである。


大陸の主要言語は5つあり、西にある世界を二分する大国である王国と教皇国の『フィア語』、北のスノーエルフと北方の人間種のホランド人が用いる『ウィンター語』。東のもう一つの大国である帝国と竜人、ドワーフが主に使う『フォーリア語』。東南にある大砂漠エネサーブ砂漠にある獣人の国家エネサーブ首長国の『エネサーブ語』。最後に西南にあるウッドエルフのウリース国と、オークやゴブリン等の亜人で構成されるカルスト国の言語の『デイリン語』だ。


なのだが、この少女の言語はその5言語に該当しない。北方の『スノーエルフ』の言語にも似ているが所々が違う。


ますます少女の素性がわからない。


……だが見てしまったものは仕方がない。


そう思いながら俺は周りにいる人も気にせずにただの木に声をかけたのだ。




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