吸血ックス
吸血鬼らしい生活を楽しむようになった私は、一つどうしても気になることがあった。気になると言うか、興味があると言うか、好奇心を抑えようにも湧き上がると言うか。
吸血鬼パワーでいろんなことができるけど、やっぱり一番吸血鬼らしいと言えば、吸血行為だろう。色んな創作物に色んな吸血鬼がいたとして、吸血しない吸血鬼はいないからね。当たり前だけど。
血を飲むの自体気持ちいいんだけど、やっぱり肌に歯を立てて直接血を吸う、それも恋人の血を吸うのは格別の気持ちよさだ。そして血を吸われるのもまた、とても気持ちいい。格別に気持ちいい。
吸血鬼にとって吸血は食事なのだけど、正直、恋人同士でする吸血行為はとってもエッチだと思う。
これを言うと、シロはまた、何を言ってるんだと呆れると思う。そう言うことばっかり考えてるのかとか言いそう。
でもね、吸血鬼になったんですよ? 吸血鬼らしいことしたいって思うのは仕方ないじゃないですか?
そう、吸血ックスがしたい。気持ちいいことしながら気持ちいいことしたら、絶対気持ちいいでしょ。
でもなー、そう直球で言ったら絶対拒否されるでしょ。シロをどうその気にさせるか。それが問題だ。
普通にお互いに吸血しながら、いい雰囲気にもっていけばなし崩し的に行ける気はする。でもそもそも、吸血鬼パワーの練習以来、全然血のやり取りしてないんだよね。
豚の血は月一で飲んでるから、栄養的にはむしろ余って体内に貯蓄していってるくらいだから、娯楽でしかないもんね。
今日は休日(と設定した)なので、最低限の家事を済ませお昼も済ませた今は特にすることもない。
天気がいいのでベランダの窓は開けているけどしっかりカーテンを閉めているので、室内灯がついていて気持ち夜っぽい感覚だ。
なのでいちゃいちゃしやすいと言えなくもないけど……
「むっ! 茜! こやつ今絶対反則したと思うんじゃけど!」
配信者をしている中で、ゲーム配信してと言う要望と共にゲームが送られてきた。ゲームは上手ではないって言ったんだけど、普通の素人が普通に遊んでるだけで意外とうけるらしい。
この間初めて配信をして、その週末に生放送で黒子さんとのレースを行った。実に大盛り上がりだったし、今後も練習風景や、他のゲームを配信するのもいいかなって思っている。
それはいい。シロも楽しんでいるし。でもね、シロ、ちょっとはまりすぎじゃない?
先週初めてしてから、一人でもめっちゃやってるんだよね。配信関係なく、と言うか配信のリベンジするとか言って。あと全然反則ではないです。逆にこのゲームでどう反則するのか知らない。
「いや、普通に実力だと思うけど。さっきから10位以上になってないのに反則疑って恥ずかしくないの?」
「だからじゃ! こんなに連続で負けるとかおかしいじゃろ!」
「まあまあ」
私も別にそんな上手なわけじゃない。子供のころは葵ちゃんとしてたりしたけど、パーティゲーム感覚でガチじゃない。組み合わせとか知らないし。でもね、シロは簡単にコースアウトしないようになっているのにたまにコースアウトしちゃう腕前だからね。
「ネット上では腕利きの猛者が集まってる訳だからね。そりゃあそうなるよ」
私たちの配信は私たちと合わせて始めた人もいたし、ガチの人もあえて同じ機体にしたり遊びをいれたりしてたから、それなりに戦いになってた。私たちと一緒に遊ぶのが目的だから、最後とかシロを一位にするために一致団結して私の妨害してきたしね。そりゃあ、そんな人たちと比べたら普通にネット対戦したら負けるよね。
「うむむ。そうは言っても実力が近いものが選ばれるのではないのか?」
「世の中には何回も最初から楽しむ人もいるし、最初から最適化された組み合わせで来る人もいるからね。まあまあ、そうだ。私と勝負しない?」
「む。勝負とな? 吠えたな。わらわに勝ち越しておるからと、練習もしておらん癖に」
言葉とは裏腹に、シロはにっと犬歯が見えるほど嬉しそうにわらった。シロに数日ずっと相手させられて、飽きたから今週はあんまり相手してないしね。
とは言え、私は何も普通にシロと遊ぼうとしている訳じゃない。このゲームに夢中で全然色っぽい雰囲気のないシロと、いかにいちゃいちゃにもっていくのか、私は妙案を思いついたのだ。
「練習しなくても、シロには負けないよ。なんなら、負けたら命令一個きいてもいいよ」
「なにぃ? 茜、わらわのことを舐めておるな? くくくっ。わらわの前にひれ伏すがよい!」
「もちろんシロが負けたら、言うこと聞いてね?」
「よかろう。わらわの練習の成果をみせてやろうではないか」
いやー、シロって本当に可愛いよね!
シロって身体能力とか高いけど、そもそもゲームって言うのになれてないから、まだまだ繊細な操作がへたくそで常に急カーブアクセルベタ踏みなのだ。原付の運転ではめっちゃびびってたし気づかなかったけど、これ見てシロに車の免許はとらせられないなって思ったし。
いくら練習しているとはいっても、いまだアイテムの能力もよくわかってなくて、いつもランダムでコースを決めるかつ目の前のことに夢中になって三週目でも同じギミックにびっくりするくらいコースを覚えようとしてないシロにそう簡単に負けるわけない。
シロの練習も相手はしなかったけど見てたし、シロ以外のキャラクターの動きの観察はしていた。新しいアイテムやコースの流れも結構覚えた。
「コース、シロはいっつもランダムにしてるけど、私選んでもいい?」
「うむ。よいぞ。練習しておらんかった汝へのハンデと言うやつじゃな」
「ありがとー、シロ。正々堂々と勝負しようね」
私は覚えているコースを選択して、シロと勝負を開始する。あくまで私とシロのどっちが勝つかの勝負なので、NPCの順位は無視だ。
「いぇーい! ごーるぅ!」
「ぐぬぬ」
まずは手堅く一勝した。ここで負けてたら恥ずかしいもんね。
「じゃあまずは一つ目の命令ね。私の膝の上にのること」
「むっ! ワンレースごとなのか。まあ、その程度ならよかろう」
シロはむしろ、にやりと悪だくみをしてるような顔になってどや顔で私の膝にのった。尻尾がくねくねしながら私に触れてくる。
む、これは私に猫仕掛けして勝とうとしてるな。負けないんだから! 残念だったねシロ! 確かに私は猫が大好きだけど! 猫より今は、色だよ色! 今日の私は血に飢えているのじゃ!
「っしゃー。次はほっぺに勝利のキスでもしてもらおうかな」
「……」
振り向いて不承不承、みたいな顔をしながら無言で両サイドにしてくれた。えへへ。シロったら、可愛いんだから。
この調子でどんどん行くぞ!
あんまりそう言うのばっかりだとあれかな、と思って一分くすぐったり、ちょっと肩揉み、とかも混ぜつつ、キスさせたりキスしたり、猫耳をハムハムしたり、脱衣してもらったりした。
「あっ」
「見たか!」
しまった。さりげなく一枚ずつむいていった下着姿のシロに集中力取られて普通に負けてしまった。これで服を着られたらだいぶやり直さないといけない。
何度もガッツポーズしているシロの様子を伺うと、にんまりと嬉しそうに振り向いた。
「ふっふっふ、油断したの」
「まあ、はい」
途中からシロの尻尾がゆれていて見えてしまう下着のずれたお尻のラインばかり見てしまっていたのが敗因だ。くそ! 色仕掛けとは卑怯なり!
「では、わらわの命令じゃが……茜もさっさと脱ぐがよい」
「ん?」
「ん? ではないわ! 何を一人で平気な顔をしておるんじゃ! わらわ一人を下着姿にして許されるわけなかろう!」
「あ、はい」
何故か一回で下着姿にさせられてしまった。尻尾でたんたんと衣類を叩かれて脱がされたし、私が一枚ずつにしたのも単に私が楽しんでのことなので仕方ない。
「では次の勝負じゃな!」
「ん、うん」
冷静に考えたらまだ日も高い居間のど真ん中で普通に下着姿になるの恥ずかしいのだけど、恥じらう私にシロは楽しそうにしながら、私を座らせて最初のルール通り膝にのった。
やば。シロのふわふわの尻尾が私のお腹を撫でてくるのとか、カーブの度に動くお尻とか、肌と肌がぺたぺた触れたり離れたりする感触とか、これは集中できないでしょ!
「……」
と思ったら、シロも同じだったようで二人ともぼろぼろで最下位争いだったし、ぎりぎり勝った。
「……これってちなみに、同じお願いをしてもいいのかな?」
「すでに何回も一枚脱げ、と命じておいて今更なことを言うではない」
「じゃあ、キスで」
シロはちょっと赤い顔で振り向いた。体の向きをかえて私の首に腕を回して抱き着くようにしながらそっと近づいてくるその顔に目を閉じ、唇をあわせる。途端に忍び込んでくるシロの舌に、私も抱きしめて答えた。
体が触れ合い、舌をからめあう。その時点でもはや勝負なんかどうでもよくなってしまうくらい気持ちよくて、このままシロを抱っこして寝室に移動しても文句は言われないだろう。
「……」
キスを終えたシロはそれを望んでいるのか、うるんだ瞳を向けてぎゅっと胸を押し付けてくる。小ぶりな胸ごしにどくんどくんと心臓が脈打って、シロの興奮を伝えてくる。
そっとシロのお尻を撫でながら、私は口を開く。
「じゃあ、次の試合ね」
「……うむ」
シロは何か言いたげな顔をしたけど、すぐにきりっとした顔になった。これで負けたらきっと、これ以上に我慢できなくなることになるに決まっている。
ここまで体が温まってきたんだ。今こそ、吸血に持っていってそのまま流れこむ時!
絶対に負けられない戦いが始まる!
「うむ! わらわの実力じゃな!」
「……」
負けた……負けてしまった。んぐぐ。でも、いっつも私から誘ってるし? たまにはシロから誘われるって言うのもそれはそれで?
「では、マッサージでもしてもらおうかの」
「え?」
そんな普通の罰ゲームに戻るの? と思ったのはつかの間。下着姿で火照ったシロに下着姿でマッサージするのが普通の訳なかった。
ちょっと手をすべらせて悪戯しながらも、何とか私は鋼の自制心できちんとマッサージを終えてゲームに戻ってきた。
「はい、終わり。よし、シロ、次こそ負けないよ!」
「えっ? ……う、うぬ」
何とかシロからの大事な部分から手を離して、ソファに寝転ぶシロを抱っこして立たせて終わらせた私に、シロはきょとんとしてから慌てて表情を取り繕い、先にソファにすわった私の上に座った。
あー、めっちゃ膝にシロのこと感じてしまう。だって、手はふいたけど、まあそりゃあ、そうですよ?
だけどさすがにシロも限界ギリギリのようで、何とか最下位だけは逃れることができた。
「うおおお!」
「う、うむ。残念ながら負けてしまったの。何でも言うがよい」
思わず勝利の雄たけびをあげる私に、シロはさっきまで言わなかったのに急に威勢よくそんな煽るようなことを言ってくる。
私の最後の命令は決まっている!
「吸血ックスしたい!」
「……は?」
あ、言い間違えた。血を吸わせてって言うだけでなし崩しにするはずだったのに願望がそのまま口から出てしまった。
明日の更新で完結となります。




