突然の怒り…
僕と八は、お酒を飲んだ。
「僕専用のワンちゃん。」
「九、ワン」
「アホちゃう?八は…。」
「さっきゆったやろ?俺は、九専用の犬になるって」
「可愛いなぁー。可愛いワンちゃんや」
僕は、八の頭を撫でる。
「九、ねむなってきた」
大きなあくびを八がした。
「ほんまや、もうすぐ12時やんか。八、先寝てて。片したら、すぐくるから」
「寝るまで、傍におって」
「わかった」
僕は、八が眠るまでベッドの下に座りながら、ポンポンとしてあげた。
「おやすみ、九」
「おやすみ、八」
暫くしてると、八は眠った。
会った時から思ってたけど、色気が駄々漏れよな。
セクシーって言葉が、ここまで似合う人に初めてあった。
それなのに、とにかく優しくて…
そこが、八のいいところだよね。
ピンポーン
こんな夜中に誰だろうか?
ガチャ…
「九、ちょっとつらかせ」
「三、いきなりどうした?」
扉を開けるとめちゃくちゃ怒ってる三が立っていた。
「いいから、つらかせ」
「痛いよ、夜中やで。離して」
「八さんがおるんやろ?」
「なんで、知ってるん?」
「竹君から聞いた」
「それだけ?」
「ええから、こい」
「わかった。わかったって」
僕は、家の鍵をとって閉めた。
「ちょっと、こい」
「引っ張らんでも、自分で歩くよ」
「ええから、こい」
三は、右腕を掴んで引っ張っていく。
暫くして、駅前の公園にやってきた。
ドカッ
「いった、なにすんねん」
三に突然腕を離されたと思ったら、殴られた。
「なにすんねん、ちゃうわ。ボケ」
「なんで、泣いとんねん。泣きたいんは、こっちじゃ」
「ふざけんな」
ドカッ
馬乗りになってきて、殴ってくる。
「やめろ」
「うっさい、黙れ」
ドカッ
「ええかげんにしろ、酔っぱらい」
ドサッ…
三を落とした。
「ふざけんな。ふざけんな。」
落とされた三は、地面を叩いてる。
「血ぃでるで」
「こんな痛みじゃ足りん。もっとせな、もっとせな」
「何ゆうてんねん、三」
三は、涙で真っ赤に腫れた目で僕を睨み付けた。
「たつくんが、どれだけ八さんを愛してたか九には、わからへん。」
その言葉に、心臓が抉れる程の痛みが走る。
「はー、はー」
息が出来んくなる。
「俺は、たつくんを愛してたから知っとる。たつくんが、どれだけ八さんを愛してるのも。たつくんが、死ぬまでどれだけ八さんに会いたくて、愛されたかったかも。俺は、全部聞いてたから知っとる。」
「三。待って」
息が苦しい。
「九が、八さんを奪うなら。俺は、九を許さん」
ザァー、ザァー
兄の悲しみのように、雨が降りだしてきた。
「三、俺、でも…」
「お前の気持ちなんかしらん。死んだ人間から、愛まで奪うなんてお前は最低や。」
「三」
雨の中、三は俺を残していった。
ザァー、ザァー
「息できんぐらい。苦しい」
兄は、八に愛されたかった。
会いたくて…。
僕が、こうなる事はわかってたはずじゃないん?
はぁー。
僕は、息を頑張って整えて立ち上がった。
胸を押さえて、歩き出す。
八に優しく出来るだろうか?
フラフラになりながら、もときた道を歩く。
どうしたら、いいの?
何で、なんも言ってくれんかったん?
何で…。
八を大切にしたいよ。
兄ちゃん
部屋の鍵を開けたら、八が立っていた。
「よかった。消えたんかと思った」
八は、泣きながらびしょ濡れの僕を抱き締めた。
「八、僕、兄ちゃんに許されへん事をしてるねん」
「ゆっくり、許してもらおう」
「死んだ人に許されるなんて、どうするん?」
「わからんけど、見つけていこう。だから、どっかにいかんといて。九が、いなくなったら俺生きていかれへん」
「八」
僕は、八の腕の中で泣いていた。