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置き去りにされた八(はち)

パタンと扉が閉まって、(きゅう)がいなくなった。


俺は、その場に膝から崩れ落ちた。


何故、好きだとハッキリ言えなかったのだろうか?


言えなかったんじゃない、言わなかったんだ。


あの日、芽衣子に気持ちを伝えようとした。


「あのさ、芽衣子。これからさ、俺等。この先もさ…。そやから…」


何度もキスをしていたくせに、ちゃんと言葉に出来なかった。


(はち)。私達、そんなんじゃないやん?友達やんね?違うんなら…」


違うんなら何やったん?


会わないやったん?


会われへんやったん?


芽衣子は、その後から俺の前に一度も現れなかった。


「後悔しとんなら、(きゅう)にはちゃんと言えよ」


空色のセーターの裾は、まだ濡れていた。


モヤモヤする。


さっき、(きゅう)の口の中に入っていた左手がジンジンとする。


胸の奥から、ドクドクと痛みを伴う液体が流れるのを感じる。


(きゅう)が、好き。


さっき、下半身に熱を感じた時により(きゅう)が好きなんだと感じた。


指を舐められて、下半身が熱を持ったのは、今までの人生でたった二回だった。


芽衣子と(きゅう)だけ…


でも、ハッキリと男の姿なのにそうなったのは(きゅう)だけだった。


ちゃんと想いを伝えなくちゃ…。


なのに、連絡先も聞けなかった。


ポタポタと涙を流しながら、(きゅう)が座っていた場所にやってきた。


何か黒い物が落ちていた。


神様は、いらっしゃるんですね


拾い上げると二つ折りの財布だった。


中を開くと、運転免許証が入っていた。


住所が、わかった。


俺は、テーブルのものをゴミ箱に捨てる。


ハンバーガーは、食えないな。


紙袋にしまった。


お風呂場に行って確認すると空色のセーターの袖は、乾いていた。


ハンバーガーの入っていたビニール袋にセーターを入れる。


フロントに連絡をして帰ることを告げた。


斜めがけタイプの鞄をつける。


「安くないですか?」


「さっきお連れさんが払ってくれたから、お酒代と30分料金ね」


「そうなんですね」


貸しを作りたくなくて、(きゅう)が払ったのがわかった。


「ありがとうございました。」


そう言われて、ラブホテルを出た。


免許証を見ながらスマホで、(きゅう)の住所をいれてみた。


ここからは、歩いたら30分以上はかかるか…。


途中で疲れたら、タクシーに乗るかな?


酔ってると思われたくなくて、俺は歩き出した。


結局、タクシーには乗らずに(きゅう)の家の下まで辿り着いた。


50分は、かかっていた。


暫くすると、誰かが降りてきた。


イケメンだな。


(きゅう)と一緒だった。


その人は、(きゅう)に近づいて何かを話して消えた。


彼氏いたのかな?


そうだよな。フリーなわけないよな。


声をかけられて、財布を渡す。


離したくなくて、引き留めた。


キスのその後……………………。


ゆっくりと唇を離した。


(はち)、僕、付き合った事ないねん。」


「えっ?じゃあ、そっちも…」


「いや、それはない。アホやからモテんかっただけやから」


初めてならよかったなんて、思ってしまった。


「そうか。」


「なんで、切ない顔してるん?童貞がよかったん?」


「そんなわけないやん。」


俺は、首を横にふる。


「でも、男ってそこ使うんやろ。(はち)は、こわない?僕は、怖いわ」


(きゅう)が、そのしたい方なら頑張るで。俺も、怖いけど」


「いっきにそこまで進むんは、嫌や。せっかくなら、ゆっくり進みたい」


「それで、ええよ。思春期の子供ちゃうから、我慢できるし」


俺は、(きゅう)を引き寄せて抱き締める。


「それも、我慢できるん?」


熱を持った下半身に、ズボンの上から()れられる。


「ほっといたら、おさまるし。(きゅう)から、離れたら大丈夫やから」


「ほんまに?ええの」


「ええよ。急がんでも。こんなん自分で直せるし。さっきかって、静まったし。」


(はち)は、やっぱり優しすぎんねんで」


(きゅう)は、俺の背中に手を回して抱き締めてくれた。


好きな人と気持ちが、繋がっただけで充分やった。

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