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もう1人の自分

冬の寒い中、学校へと向かう美姫。

すれ違う人達は、みんな虚な顔をしている。

空は黒い雲で覆われていた。

学校についても、みんなの様子がおかしい事に

気付き、原因を探す。

穏やかな日差しの中で、

風がそよそよと流れて行く中で、

心穏やかに。何事もなく。

平和な日常。


別に一人でいようと、構わなかった。

変わらない毎日に飽きようとも、

別に良かった。

平和な日常が、みんなと過ごした毎日が、

こんなに大切なものだったなんて。

……知らなかった。


もしこの世界に人間が居なかったら。

自然はのびのびと育ち、空気も綺麗だったかもしれない。

争いも感情もなく、穏やかに過ぎていったのかもしれない。

人間は、破壊や争い、恐怖や不安を生み出すから。


だから、いなくていいんじゃない?


……ピピピピ


アラームが鳴り響く。

ベッドの上には、まるで芋虫のように

布団にくるまっている少女がいた。


「寒いよぉ」


今にも雪が降りそうな寒さだった。

温かい布団から出たくなくなってくる。

外にも出たくない季節。

なぜ人間には冬眠がないのか。

暖かくなった春から学校でいいんじゃないか。


動物ならよかったかもしれない。


それなら、学校に行かなくてもいいのに。

ベッドの上に浮かんでいる男が、

「温めてあげようか?」

と、私を覗き込み、ゲラゲラ笑っている。


人間は大変だねぇ、と男は笑ったその顔に、

私は枕を投げつけた。


学校にいく準備をして玄関を出てみると、

日差しはなく、雲も灰色になっている。

世界はまるで薄暗い夜を歩いているようだ。


「何だろ、気持ちが悪い」


周りの行き交う人々の表情が、うつろになっていた。

時々、黒いモヤみたいなものも見える。

イライラした感情や、怒りの感情。

空を見上げると、黒いモヤが渦になっているように見えた。


「急がなきゃ、遅刻しちゃう」


のんびりと見ている場合ではない。

学校に行けば気持ち悪さも、何とかなるだろう。

雪も降らないうちに着きたい。

少女は小走りで学校に向かった。


私の名前は岡田美姫。普通の女子高生である。

成績も普通、見た目も普通。

なるべく目立たないようにと過ごしている。

他の人とは、違う何かはあるのだけど、

私にとっては普通の事なのだ。


学校についてみると何だか薄暗い雰囲気で、

黒いモヤがかかっているようだった。

雪雲の暗さのせいだろうか。

そんな日もあるのかな?と、

教室に向かった。


教室の中はシーンとしていて、

誰も喋る人もなく、椅子に座っていた。


いつもなら、騒がしいはずなのに。


楽しそうな声やキャーキャーと騒ぐ声が、

美姫は聞くのが大好きだった。

のに、今は大人しくみんな椅子に座っている。


先生にでも怒られたのだろうか。


まるで感情のないロボットのように、

ずっと机にある教科書を凝視していた。


何かがおかしい。とは気付くものの、

原因が分からない。

様子を見ているしかなかった。


放課後になり、みんなが帰っていく。

今日一日見ていたのだが、感情が抜かれているようだった。

誰も騒ぐ人もいないし、喧嘩も起きない。

静かで穏やかで平和だ。


……だけど、これは違うと思う。


人間には感情がある。だからこそ、

いろんなものを生み出せる。

争いも怒りもあるが、喜びや愛もある。


「感情があるから人間なんだよ」


帰り道をトボトボと歩きながら、つぶやいた。

ふと、空を見上げてみる。

どんどん雲が集まっていて、渦を巻いているのが、

大きくなっていた。


まるで、感情を吸い込んでいるかのように。


そこで、ハッと気付く。

もしかして、誰かが感情を集めているのではないか?

吸い取った感情が全てここに?

集めてどうするというのだろうか。


膨大な量になっているだろう、その渦の中心は暗闇のようだった。

中心には、誰がいるんだろうか。


美姫は目を細めて、その中心を見つめた。

ジッと見つめていると、うっすらと人影のようなものが見えてきた。


誰かいる!


そう思った瞬間に、吸い上げていた感情の渦が、

美姫に向かってきた。

逃げられない!

とっさに足が動いてもくれず、

渦の中に巻き込まれてしまった。


渦の中はまるで台風のように、周りで風が吹き荒れて暴走しているようだった。

誰かの感情の声が聞こえては消えて行く。

美姫は中心にいるらしく、周りの吹き荒れる感情を見ていた。

次第に輪が小さくなり、美姫も巻き込まれていく。


嵐に巻き込まれるっ!

その瞬間、怖くてギュッと目を閉じた。


目を閉じると、膨大な感情を受け取る事になる。

意識を向けてしまうからだ。

いろんな人達の感情を、一つずつ処理する間もない。次から次へと襲ってくる声に、耐えてはいたものの、意識を手放してしまった。


家で留守番を仰せ使っている男の名は

カイル という。

不審人物から家を守ったり、周囲に異常がないかを見回るのが日課となっていた。


いつもお出かけ、いや、見回りに行くのだが。

今日は何だか空気というか、雰囲気がおかしい。

もう美姫も学校から帰ってきていいころだ。

上を見上げると、黒い渦となっていて。

その中に2つの人影を見つけた。


やばいって!


背中の翼を出し羽ばたきながら、

美姫のもとへと急ぐ。


美姫は男に抱えられていた。

どうやら意識を失っているらしい。

カイルは戸惑いながら聞いた。


「おい!その子をどうするつもりだ!」


男は笑いながら、カイルを見る。

その顔は狂っているかのようだった。


「器にするのだよ、この子の体を使ってな」


膨大な感情を受け取ると、普通は受け止める器が

壊れてしまう。

ただ、美姫には、なぜか器がない。

だからこそ、膨大な量でも受け止められる。

体全体が器となるので、容量は無限だ。

だが、それは下手をすると命に関わる事だった。


「何をする気なんだ?」


カイルは男に尋ねた。

それは誰からの指示なのか、美姫の媒体を使って何がしたいのか。

慎重に探りを入れる。


「人間に感情など、いらぬだろう」


そう話しているその姿は、まるで何かに怒っても

いるようだった。

嫌な事でもあったのだろうか。


男はこの世界に不満を持っていた。

社会からも外され、声を上げても誰も分かってくれない。

常に弱いものは虐げられ、強いものは権力をもつ。

ドロドロとした感情の溢れたこの世界が、

大嫌いだった。


みんなロボットのように、感情をもたなければ。

こんな世界になる事もなかった。

だから、世界を変えたい!と願った。

その為に強くなろうと決めた。

悪魔に魂を売り渡せるくらいに。


悪魔と取引したのか!


話を聞きながら、カイルは焦った。

命懸けで戦ってくるこの男には、勝てそうにない。


「姫、起きてくれ!」


普通の女子高生として、歩んで欲しかった。

このまま、目覚めなければ。

狙われる事もなく、人として幸せだっただろう。


だが、命の危機が迫っている中で、

この方法しかなかった。


カイルは心の中で美姫に向かって叫んだ。

力強い声で、強い想いで。


意識を失っていた美姫の目が開き、

体が輝き出す。

男は抱えていた手を離し、飛び退いた。

光を浴びると、体が焼けるように痛い。


美姫は息を吸い込み始めた。

すると、黒いモヤや渦が体に吸い込まれて行く。

全て吸い終わると、

自分の体を抱きしめた。

「辛かったね、もう大丈夫だよ」

そう呟くと、

美姫は涙を流しながら、膨大な感情を

全て光へと変えていった。


そのあとも美姫は光を放ち、世界を光で包み込んでいった。

男は逃げようとしたが、どうやら逃げ遅れたらしい。光に焼かれて、ジュッという音と共に。

いなくなっていた。


「これはすごい。ここまでとは思わなかった」


カイルは関心してしばらく見ていたが、

ハッと気付き美姫のそばに駆け寄る。


「姫!大丈夫?」

声をかけてみるが、聞こえていない。

体が浮かんでいる時点で、美姫ではない。

人間にこんな事が出来るはずは、ない。


無意識状態になり、違う人格が出ているようだった。

「誰だ、お前」

カイルが尋ねてみても返事はない。


次第に光が収束していき、美姫の体の中へと

消えていった。

その瞬間、体が重力によって落ちて行く。

カイルは慌てて美姫の体を抱きかかえ、

家へと急いだ。

ベッドの上にそっと置きながら、息をしているか確認すると、

スースーと寝息を立てて、美姫は眠っていた。


やれやれ、と安堵したカイルは、

ベッドのそばに座った。


この騒動をどう神様達に知らせようかと、

頭を悩ませるのだった。




















感情が抜かれている事を知った美樹は、

空の雲が怪しいと感じる。

渦を巻いている雲は、全ての感情を集めていた。

それをなんとかしようとするものの、

取り込まれ意識を失ってしまう。

もう1人の自分が出てきて?

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