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A子とA男の結婚談義

作者: aqri

A子は問う。

『結婚のメリットって何?』


A男は答える。

「好きな人と一緒に居られる」


『付き合ったままでも一緒にいられるよ』

「結婚は法律もある。付き合ってるっていう抽象的なものじゃなく具体的な形が残せるものだ」

『お金は夫婦共有財産になる。自分の物じゃなくて相手のものになるのが何でメリットなの』

「一緒に暮らすなら共有財産になるのは当然だ、家族なんだからみんなで使うものじゃないか」

『経済的に満足度ないじゃない』

「夫婦になると税金の控除が使える、節約できる方法はいくらでもある。夫婦で働けば二馬力だ、圧倒的に金銭面では楽になる」


 A子とA男はまっすぐ向かい合い議論する。今とても大切な局面なのだ。真剣に、しかし確実に、絶対に結論を出さないといけない。


『結婚したら他に好きな人ができたら別れて終わり、ってならない。だいたい無理な話じゃない、一生で一人しか愛せないなんて。奴隷みたい』

「その人以上に魅力的な人がいたとしても、その人が劣っていたり悪い人ってわけじゃない。何故一番愛した当初と違う気持ちになったのか。それは相手じゃなく自分に原因があるはずだ、話し合いや感謝を伝えるだけで簡単に好転する。もらうばかりのテイカーじゃなく、与える側のギバーにならないと」

『赤の他人が一つ屋根の下に住むなんて無理よ、育ってきた環境が違うんだから常識が違う』

「だったら二人で新しくルールを作ればいい。お互いの常識の違いはあって当たり前、どちらかが妥協するんじゃなく二人で折り合いをつければいいんだ」


 A子は現実的な堅実な否定的な話を。A男は夢希望や肯定的な話を。お互い納得がいくまで延々語っていく。


『そもそも動物は結婚しない、何で人間は結婚っていう制度に縛られるの?』

「夢や幸せ以外で言うなら、それが国を、社会を構築するシステムの一つだから。人間は種の保存で生きていない、そういう制度を作ることで人を残し続けている」

『しがらみが多いわ、いつ結婚するのか年寄りや親に急かされて、独身は敗者みたいな目で見て』

「結婚のすばらしさを知っているからだよ。一人で良いと言っていても、結婚すると今までとは違う世界が見える。少しお節介だけどね、コミュニケーションの一つだ」

『結婚した友達は最初幸せそうだけど、一年もすれば夫への愚痴や悪口が増える。子供ができるとなおさら。幸せそうには見えない』

「皆忘れてしまっているだけだよ、相手を思う優しさを。苦楽を共有する思いやりを」

『今まで見えてなかったものが見え始めただけでしょ。付き合ってる時は誰だって猫かぶってるんだから、本性が見えただけ』

「例えそうでもそれはお互い様だ、気づいてないだけで自分もそうだよ。結婚相手は鏡みたいなものだ。相手に不満があるなら相手も自分に不満がある。こんな人じゃなかったと思ったなら相手も同じことを考えてるよ。今がそうでもこれからどう変わるかだ、二人で」


 その後も二人の議論は続いた。不倫、子供、ともに暮らす事、家計、マイホーム、家事、仕事、育休、中年になってから、老後、様々な事をじっくりと。納得がいくまで。

 そこまで話してA子は紅茶を飲み一息。A男はコーヒーを飲み一息。


『相手にどうしても、絶対に譲れない欠点がある場合は?』

「そこは正直に話そう、結婚はお互い公平な立場のはずだ。どちらかが強すぎたり、何かこらえるだけの立場では意味がない。でもそれが本人ではどうしようもできない生まれつきのものだったり、相手の尊厳を傷つけることは絶対にしてはいけないよ」

『わかってる。本人の努力次第で改善できることだから』

「その努力を応援して、二人で乗り越えるんだ」

『それが』

「結婚というものだ」


A子とA男は微笑み同時にうん、と頷いた。

 ふう、と一息つく。目の前にいる男性は顔を真っ赤にして、指輪を見せたまま固まっている。

 ちょっと美味しいレストランがあるんだ、ドレスコードの店だからオシャレしてね、と言われて来て料理を食べている時に突然店の明かりが消された。

なんだ? と思っているとプロのダンサーらしき人たちが音楽と共に踊りだし、花吹雪が舞い、恋人の男性が歌いだし、なんやかんや最終的に王子が姫に告白するように片膝をついて指輪を取り出して。


「僕と結婚してください!」


 この瞬間、栄子(えいこ)の脳内で行われたのは結婚するか否か会議。彼の事は好きだし一緒に居たいと思うが正直結婚まで考えてなかった。何故なら付き合ってまだ二か月だ。

 今年で31歳の栄子だが、結婚を焦ったことはない。こういのはご縁だし独身生活が気楽すぎて一人でもいいかなと思っていた。恋人ができたと知るや否や親や友人、会社の上司からは結婚しないのかという話題が増えて内心ため息をついていた中である。

 結婚してください、の、「い」が言い終わった瞬間から脳内会議終了まで0.2秒。栄子は小さく微笑むと男性の手と指輪をそっと両手で包み込む。


「よろしくお願いします」


 わああ、っと歓喜が上がった。男性は半泣きだ。よしよし、と優しく温かく受け入れる。そして誓う。今はこんな雰囲気だから言えないが、結婚式までにちゃんと言おう。


 フラッシュモブとかサプライズとか白けるからあんまり好きじゃない、と。


 そうでなければとんでもない結婚式になってしまう、劇団〇季でも呼ばれそうだ。地味に、親しい人だけを呼んだ小ぢんまりした式にしたい。


『言い方気を付けないとね、本人はたぶん寝る時間削って必死に考えてやってるだろうから傷つけちゃう』

「ああ。貴方が考えたオンリーワンを、貴方の手で伝えてもらえると嬉しいな、とやんわり伝えよう。サプライズ否定されると地獄に落ちるくらいショックだろうからね」


 それでも結婚を決めたのは、好きだからとか支え合いたいからとか将来安泰だからとか、さんざん議論した内容ではなく。


 35歳にもなってこんなことをやっておきながら緊張と恥ずかしさで顔真っ赤にして泣き出す恋人が馬鹿だなあと思いつつ、まあこの人と一緒なら退屈しないかなと思ったのだ。


結婚はノリと勢い。結局はそんなもん。


END


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