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第86話「天雷法衣」

いつも読んで下さる方々に感謝しております。

 全てを託して瞳を閉じた親友を背に、龍二は最強の敵である白髪金眼の少女──ヤツヒメと相対する。

 彼女の残り耐久値は8割ほど。

 これを削り切るのは彼女の実力を考えると至難の業であり、実際にこれまで2割以下まで削る事は一度も出来なかった。

 そんな彼女を残った自分とアリスと優の3人だけで5分も食い止めるのは、ハッキリ言って難しいだろう。

 でも親友は信じて、自身の付与魔法に集中している。

 ならば男としての矜持を示す為にも、ここは彼を守り切るしかない。


「行くぞ、優、伊集院」


「任せて、龍二」


「土宮、サポートは任せるのじゃ」


 優が最後の切り札である霊符を取り出して、龍二に攻撃、防御、速度の基本三種の強化を施す。

 アリスは残り魔力の残数を考えて、冷静に魔法を使用するタイミングを見計らうようだ。

 そんな2人を背にして、前に出た龍二は自身のアビリティ〈聖騎士せいきしちかい〉を発動させた。

 〈聖騎士の誓い〉とは、守護する事を設定した対象がフィールドにいる時のみ発動可能。

 2分間だけ全能力を上昇。守る者の耐久値が残り半分以下の危機に陥っている場合に、一度だけ『守護騎士の俊足しゅんそく』を使用可能とするアビリティだ。

 この場合は全員が耐久値が残り4割なので、誰を選択しても条件を満たしている。

 龍二は迷わずに優を選択。

 通知が届き幼馴染の金髪碧眼の少女が背後で苦笑するが、いつもの事なので龍二は気にしない。

 強者としての余裕か、ヤツヒメはじっとそれを眺めているとおもむろにこう言った。


「準備はできたか? なら真っ正面から叩き潰すぞ」


「ヤツヒメ姉さん、そう簡単に俺がヤラれると思うなよ」


「口だけではないことを証明してみろ、龍坊ッ!」


 雷を全身からほとばしらせながら、ヤツヒメが前に飛び出す。

 それに対して龍二は感知アビリティを発動。範囲を道場内で固定して、ヤツヒメの動きの一つ一つに神経を集中させる。

 先ずは、俺を通り抜けてアリス狙いか。

 身体の動きから彼女の狙いを読み取り素早く進路を塞ぐと、大剣を手に左から右に薙ぎ払う。

 思考を読まれたことに少々驚いたヤツヒメは、咄嗟に両手の剣をクロスさせて防御。

 強力な一撃を受け止めて、そのまま彼女は後ろに弾き飛ばされた。


「ほう、これは」


 ヤツヒメは微笑を口元に浮かべる。

 次に彼女は手に持つ〈天雷之剣〉を大きく振りかぶり、全力で投擲。

 しかも一回だけではない。先程と同じように、次に地面に突き刺さっている剣を手に取って立て続けに投げ放つ。

 アリスから速度強化をもらった龍二は加速して、感知アビリティで手短な剣から切払っていく。

 20本ほど切り払うと、ヤツヒメは手を止めて感嘆の声を漏らした。


「やるな、少しばかり驚いたぞ」


「そう簡単に仲間をやらせると思うなよ?」


「面白い、なら先ずは龍坊から沈めてやろうか」


「受けて立つ!」


 一つの雷と化したヤツヒメが、一瞬にして目の前に現れる。

 両手の剣から繰り出される斬撃を、龍二は感知アビリティで動作の瞬間を感じながら必死に紙一重で避け続ける。

 しかし、余りにも速すぎる。

 回避と受けるので精一杯で、反撃する余裕がない。

 その危うい防戦一方の龍二を見て、アリスと優が援護に動いた。


「優、封間でヤツヒメ様の動きを止めるんじゃ。妾は土宮に残った魔力を全部使って、強化魔法をかけるのじゃ!」


「わかったわ!」


 優がヤツヒメの動きを止めようと、両手を向けた瞬間だった。

 龍二の姿勢が崩れた一瞬の隙きを狙って、手にしていた雷の剣を投擲。

 完全に油断していた優の胸に雷速の剣が突き刺さり、4割残っていた耐久値を0にした。


「え、うそ……」


 その言葉を最後に意識を失い、その場に倒れる優。

 

「悪いが、一番厄介な空間魔法使いから無効化させてもらったぞ」


「……ッ」


 歯を食いしばり、龍二は〈ティターンの大剣〉を強く下段から上段に振り上げる。

 ヤツヒメは、それをバックステップして回避。

 そんな彼女を逃すまいと、龍二は上段から振り下ろして一刀両断にする。

 だが、全く手応えがない。

 感知アビリティで姿を追うと、ちょうど背後を取った彼女の反応を見つけた。


「うおおおおおおおおおおおッ!」


 選択するのは上級大剣技〈大山切り〉。

 振り向くと同時に、光り輝く大剣が横にヤツヒメの身体を薙ぎ払った。

 しかし耐久値は一切削られず、真っ二つになったヤツヒメはただ霧散する。

 ……な、これも残像!?

 驚く龍二の両足を、しゃがんで下に潜り込んだヤツヒメの雷のような鋭い蹴りが払う。

 一瞬だけ宙に浮い彼に右手のひらを向けると、彼女は小さく呟いた。


「壱の剣〈開放〉」


「ぐ……ッ!?」


「土宮ぁ!」


 咄嗟にアリスが対雷の防御魔法を、龍二に展開できるだけ発動させる。

 ヤツヒメの手に持つ雷の剣は形を崩すと、小さな〈天雷〉となって龍二の身体を道場の壁まで勢い良く吹っ飛ばした。 


「ガハ……ッ」


 間一髪、雷と身体の間に〈ティターンの大剣〉を差し込んで受けたが、龍二の耐久値が残り1割まで減る。

 そのまま地面に倒れた龍二は、強い衝撃を受けた影響で直ぐには立ち上がれない。

 不味い状況だ。

 残されているのは、今の魔法で魔力を使い切ったアリスだけだ。

 龍二が、そう思った瞬間の出来事だった。

 ヤツヒメが使用していた魔法陣とは異なる巨大な魔法陣が、地面一杯に広がる。

 一体何事かと視線を巡らせると、そこには魔力を使い切ったはずのアリスが優から事前に受け取った十枚の霊符を構えていた。

 まさか、霊符に込められている優の魔力を使用して極限魔法を行使する気か。

 龍二の予想通り、親友の少女から受け取った霊符の魔力を全て消費して、青髪の少女は杖を天高く向ける。

 そして最後の呪文を紡いだ。


「偉大なる原初の一柱たる土母神ガイアよ。地より裁きの槍を解き放ち、我が眼前に立ちふさがる敵を穿つらぬけ!」


 極限土魔法〈地祇ちぎ裁槍さいそう〉。

 無数の必殺の土属性の槍が魔法陣から出現して、ヤツヒメに襲い掛かる。

 舌打ちをして彼女は跳躍して回避しようとするが、地面から召喚された槍はその身を逃さない。

 急所は避けたものの四肢を貫かれて、ヤツヒメの耐久値が残り5割まで減少する。


「……見事だ、小娘には70点をくれてやろう」


「強がりを、このまま耐久値を削りきってやるのじゃ!」


 杖を振るい追撃しようとするアリス。

 そんな彼女の目の前で、とんでもない事が起きた。

 残っていた〈天雷之剣〉が浮かび上がり剣の状態を解除すると、ヤツヒメの元に集結。

 とてつもない威圧感に恐怖したアリスは慌てて杖を振るい魔法陣から巨大な槍を放つが、ヤツヒメは四肢の拘束を力技で破り自由になるとそれを片手で受け止めた。

 浮かび上がる身体の紋様。

 ヤツヒメの身体から溢れ出る雷の色は、金色から純白に変わる。

 そんな、まさかアレは。

 天を見上げて、龍二は瞠目した。

 天照ヤツヒメが極限魔法を、纏っている。

 ビリビリと肌に伝わる空気の振動。 

 雷の極限を纏ったヤツヒメは拳を握り締めると、そのまま地上に降りて大地に向かって振り下ろす。

 たったそれだけで、アリスの極限魔法は跡形も無く霧散した。

 二本の足で立ち上がるヤツヒメは、次に姿を消してアリスの真後ろに現れると、こういった。  


「これは天衣魔法の奥義〈天雷法衣〉だ。我にこれを使わせた事を褒めてやるぞ」


「ッ!?」


 骨をへし折らんばかりの鋭い回し蹴りが、アリスの脇腹を直撃。

 防具服の効果で実際に折れることは無かったが、アリスの残っていた耐久値は全て0になった。


「極限魔法を纏うなんて、メチャクチャなのじゃ……」


 と、呟きアリスは地面を転がって動かなくなる。

 残るは耐久値が1割の龍二と4割の蒼のみ。

 対するヤツヒメは残り5割。

 これを果たして自分の〈限界突破オーバードライブ〉と蒼の〈付与魔法〉だけで削り切れるのか。

 不安に思う龍二を、彼の内にある黒炎が叱責した。


「愚か者! 龍二、これまで積み重ねてきた2週間の自分を信じろ」


「……黒炎」


「それにお主は1人で戦っているわけではない。ここまで繋いでくれた仲間達と、天使様がまだ残っておられるではないか!」


 頬を強く殴られたみたいな衝撃を受ける。

 それだけ自分と一つになっている黒炎の執念の熱意は、とても大きなものだった。

 龍二は頭を振って意識を切り替える。

 そうだ。

 自分の耐久値はまだ残り1割も残っている。まだ戦えるのに諦めるのは、ソウルワールドのプレイヤーとして死んだも同然だ。

 龍二は熱意を胸に立ち上がろうとする。

 ヤツヒメはそれを一瞥して嬉しそうに笑う。

 ──その時、道場内を純白の光が照らした。


「「ッ!?」」


 途轍とてつもない気配を感知して、ゾワッと全身から鳥肌が立つ。

 それはヤツヒメも同様だったらしく、彼女も視線を龍二と同じ方向に向ける。

 そこには、明滅する4枚の羽を広げる白髪の少女の姿があった。

 身に秘める力は絶大。

 正しく天使としての存在感を放ちながら、壱之蒼は金色の瞳をそっと開く。




「四重付与魔法〈四神シジン天衣テンイ〉」




 頭上に天使の輪を浮かべる蒼。

 どこか苦しそうな彼の表情を見て、龍二は察した。

 アレは3分も保たない、と。

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― 新着の感想 ―
[一言] 2日で一気読みしました。とても面白いです! この後の続きがすごく気になるので、更新待ってます。
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