第83話「白銀の密談」
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マーリンが蒼との修行を初めて3日が過ぎた。
ヤツヒメの方の修行は〈天衣魔法〉に慣れてきたのか、最近は〈千之剣〉を引き出すところまで行くようになってきている。
──と言っても、かなり手加減しているみたいだが。
アレの本気をずっと見ていた自分には分かる。
もしも〈千之剣〉が本気を出せば、最初の〈天衣魔法〉を出した時点で蒼達は一方的に叩きのめされて地面に倒れることを。
いつも彼女がギリギリの〈決闘〉を繰り広げているのには理由がある。
それは決闘で負けても蒼達に経験値が入るからだ。
しかもアレだけ限界を越えるような戦いを繰り返せば、それなりに良い経験値が入るはず。
現に残り期限が2週間を切った現在の状況は、一番レベルの高い土宮龍二が79。一番レベルの低い水無月優が69だ。
恐らくは後一週間もあれば全員ヤツヒメが指定したレベルを越える。
でもなんでこんな事を全員に強要しているのか、理由は単純明快で全ては壱之蒼の為だ。
マーリンは森でドラゴンスライムと戦っている蒼達を遠目で観察しながら、苦笑した。
「君は本当に過保護だな、ヤツヒメ」
「五月蝿いぞマーリン。それで例の話は本当なのか」
「ああ、本当だとも。11月の頭に開かれる世界七剣である葉月家主催のパーティ、そこに〈騎士王〉が来られる」
「アルサめ、とうとう乗り込んでくる気か」
忌々しそうに呟くヤツヒメ。
そんな彼女に、マーリンは今日知った新情報もまとめて伝えた。
「それと部下には〈太陽の騎士〉ガルシア卿と〈恭順の騎士〉モルド卿が来るそうだ。特にモルド卿は、アルサ皇子の妹なだけあってかなり強いし頭もキレるから要注意だね」
「正に最強の面子だな。来月の事を考えるだけで頭が痛くなってきたぞ」
「仕方ない、何せ私が蒼君の事を全て喋ってしまったのだから。特にごみ拾いのクエストの話をしたら、感情の薄いアルサが笑ったのは始めてみたよ」
と言っておどけてみせるマーリン。
そんな彼を、ヤツヒメは鋭い目で睨みつけた。
まぁ、普通に怒るよね。
殺意が込められた視線を受けながら、マーリンは胸中で苦笑する。
何故ならば、諸外国における〈天使〉に関する情報はトップシークレットだ。
彼の家に掛かる国外からの電話は全て国の許可が必要で、知り合い以外からの通知は絶対にいかないように工作してある。
荷物類も検分を通して安全性を確保したものしか持ち込まないようにしており、この一ヶ月の間に盗聴器やら隠しカメラ等が仕込まれた贈り物が届いたのは数え切れないほど。
そして神威市に外の国の者が中に入るためには許可証が必要で、例え神威市に侵入したとしても数多の護衛が取り押さえるようになっている。
目的を偽って蒼に近づこうとして捕まった者の数は、マーリンが知っているだけでも一ヶ月で2桁以上はいく。
そこまで厳重にしてある蒼の情報を、自分はアルサ・ペンドラゴンに全て包み隠さずにペラペラと喋ったのだ。
彼女としては裏切り者以外の何者でもない。きっとハラワタが煮えくり返る思いだろう。
ヤツヒメはこめかみに青筋を浮かべると、マーリンに対して笑顔で言った。
「ハハハ、どうやら我は〈円卓の騎士〉の相手をする前に、裏切り者の粛清から始めた方が良さそうだな」
「え、ちょま──」
パキポキと指を鳴らして、ヤツヒメは〈天衣魔法〉を展開して愛刀の〈小烏丸〉を抜刀。
蒼達を相手にしている時とは比較にならない速度で、容赦なくマーリンの首から上が切り飛ばされた。
首を失った白銀の魔法士の身体は、そのまま地面に倒れて光の粒子となって消える。
どう見ても、この世界で死亡した者に例外なく起きる現象だ。
普通に考えるのならば、マーリンは今の一撃で確実に死んだと言える。
しかし彼女は、この世界で自分の事を十二分に理解している一人だ。
しばらくすると、ヤツヒメは何もない空間に刀の切っ先を向けて睨みつけた。
「おい、死んだふりするのなら本当に殺すぞ」
「まぁ、君とは長い付き合いだ。こんなのバレバレだよね」
「偽者だと分かりやすかったからな、気持ちが良いくらいに切りやすかったぞ」
「適度にガス抜きができたようでなにより、頼むから本物の私は切らないようにしておくれよ」
久々にスッキリした、そういうニュアンスで語るヤツヒメにマーリンは苦笑いする。
しかし何時までも隠れていると、今度は本当に此方を切りに来かねない。
マーリンは、観念して白銀の光と共に姿を現す。
するとヤツヒメは、刀の切っ先を向けたまま敵意を隠すことなく自分に尋ねた。
「これだけは聞いておく。貴様は我々と円卓、一体どちらの味方だ?」
「そうだね、あえて言うなら私はどちらの味方でもない。基本的には中立であり、個人的には蒼君の味方だと言っておこうか」
「マーリン、それなら何で情報をアルサに提供した。アレのせいで今まで興味の薄かったアルサは、蒼に強い関心を持ってしまったんだぞ」
「……そうだね、これだけはちゃんと理由を話しておこうか」
時間が無かったので他の〈十二神将〉に今回の自分の行動は一切相談しないで独断で行った。
そのため他の仲間達から、話があるから面を貸せとチャットのメッセージが絶えない毎日だ(通知はオフにしているけど)。
マーリンは徐に、今回の〈騎士王〉を動かした最大の引き金となった経緯を説明した。
「私が今回、蒼君の為に持ってきた〈オリハルコン〉はキャメロットの秘宝の一つだ。それを手に入れる為に私は、アルサ皇子に蒼君の全てを教える代わりにアレを貰ったんだ」
「……貴様が蒼に対価を求めなかったのは、それの対価を他でもない蒼自身が払っていたからか」
「まぁ、そうなるね」
「他に方法は……いや〈千里眼〉を持つ貴様がそんな行動を取ったのだ。きっとなかったのだろうな」
「理解してくれるのなら助かるよ」
「はぁ、呉羽にはちゃんと説明しておけ。今回のスタンドプレーで、一番キレていたのはアイツだからな」
ため息混じりに、ヤツヒメは息を吐く。
理不尽なように見えて、理解力があるのが昔から彼女の良いところか。
これで自分と彼女の話はお終い。
用の一つを済ませたマーリンは、気兼ねなく視線を外に向ける。
すると彼の〈千里眼〉は窓からは絶対に見えない森の奥深く、そこで一体のドラゴンスライムとの戦いを制して喜ぶ白の少女の姿をハッキリと捉えた。
……なんて眩しい笑顔なのだろうか。
マーリンは無垢なる〈天使〉を眺めながら、小さな声で呟いた。
「〈オリハルコン〉の上位変換はソウルワールドには存在しない。もしもこれができるようになれば、それだけで彼の価値はとんでもないことになるだろうね」
「……ああ、そうだな」
ヤツヒメも、同意して頷く。
この力が実現して諸外国に知られるような事があれば、様子見している奴等も間違いなく動くのは間違いない。
こればっかりはマーリンも〈騎士王〉には話せないな、と心の底から思うのであった。




