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第79話「オリハルコン」

いつも読んで下さる方々に感謝しております。

 皇居内にヤツヒメの指示でマーリンが発動したのは、広範囲の指定型念話魔法。

 範囲内にいる指定した人物に直接話しかける事ができる魔法なのだが、顔見知りではないと回線を繋げる事はできない。

 故に龍二達と顔見知りであるヤツヒメが魔法陣の中心に立つと、そこから『道場に全員集まれ』と声が直接頭の中に響き渡った。

 ヤツヒメとマーリンと共に歩き、道場に到着する蒼。

 当然の事ながら、修行していた龍二が先に待っている。

 顔を合わせると先程の事を思い出して、少しだけ気まずい空気になる。それを敏感に察知したヤツヒメから「どうかしたか?」と尋ねられて、咄嗟に蒼は何でもないよと誤魔化した。

 いけないいけない、気持ちを切り替えなければ。

 蒼は自分の頬を軽く叩き、意を決すると他の人達が集まってくる前に密かに先程の事を謝罪した。


「さっきはごめんね、龍二」

「お、おう。俺は全く気にしてないから気にすんな、それよりおまえの方こそ大丈夫か。出て行くとき、すっげぇ顔してたぞ」

「心配してくれてありがとう。落ち着いたからもう大丈夫だよ」

「……あまり抱え込みすぎるな。おまえは1人じゃないんだ、困ったら遠慮なく俺や優達を頼ってくれ」

「うん、そうだね。次からはそうする」


 心配そうな顔をする龍二の言葉に、小さく頷いて返す蒼。

 そこでふと黒猫となった黒炎の姿が見当たらない事を尋ねると、どうやら今は彼と一体となり身体の中にいるらしい。

 龍二が手のひらを見せると、そこから黒猫の生首が出てきて「天使様、元気になられたようでなにより」と口にする光景は実にシュールだった。

 それからしばらくして優と紅蘭と真奈の3人が来て、少し遅れて眠たそうな顔をしたアリスが慌ててやって来ると全員が揃った。

 いつもの組手が始まる前と同じように、ヤツヒメの前に横一列に並ぶ蒼達。

 ヤツヒメの横に待機している白銀の髪の美少年ことマーリンは、一歩前に出るとみんなに自己紹介をした。


「初めまして、私は魔法士マーリン。ヤツヒメとはソウルワールドで同じパーティを組んでいた仲で〈十二神将〉の1人だ」

「マーリンはアーサー王の伝説で出てくる魔術師の名前なのじゃ。お主、それ本名ではなかろう?」

「もちろんプレイヤーネームだよ。でも最近はこっちが本名みたいになってるから、そこは気にしないで欲しいかな」

「……怪しい雰囲気を感じるのじゃ」


 アリスが敵対認定すると、何故か真奈と2人揃って僕を守るように前に立つ。

 強い敵意を向けられた白銀の少年は、困ったような顔をすると頬を掻いた。

 そこにヤツヒメが追い打ちをかける。


「おまえらに言っておく、基本的にコイツは信用するな。ソウルワールドで一緒にプレイしていた時は見え見えの釣りアイテムを取って仲間を窮地におとしいれたり、仲の悪い団の首脳陣を煽ってプレイヤー同士で戦争を起こしたりしたとんでもない悪人だからな」

「マーリンさん?」


 ヒメ姉の言ったことは本当なのか蒼が視線を向けると、そこには「あれは楽しかったなぁ」と反省の色のないマーリンの姿があった。

 やはりヤバい人なのか。

 マーリンに対して、蒼の中にある5段階の警戒レベルが3まで上昇する。

 紅蘭くれないもドン引きした様子でマーリンを見据えると、ヤツヒメに一つだけ尋ねた。


「こんな危険人物をよくパーティに入れましたね。他の人達は何も言わなかったんですか」

呉羽くれはが面白い奴を見つけたからと言って連れてきてな。もちろん他のメンバーも反対したのだが実力も超一流なのが厄介で、逆に我々の監視下に置かないとヤバイのでは? という結論に至ったんだ」

「迷惑はかけていたけど、ちゃんと私は役に立っていただろう」

「おまえは普段の行いがマイナスだから、どれだけ善行をしてもプラスに転じる事はないと言っておこうか」


 呆れた様子のヤツヒメ。

 対するマーリンは「なんて酷い皇女様なんだ」と言ってわざとらしく畳の上で膝を抱えて拗ねたフリをする。

 ヤツヒメはそんなマーリンを足蹴にすると、うんざりした顔で言った。


「おふざけはここまでにして、本題に入るぞ」

「やれやれ、人使いが荒いお方だ」


 そう言って白銀の少年が取り出したのは、金色に輝く球体だった。

 洞察アビリティと鑑定アビリティで見た蒼と真奈は、それの正体に驚きのあまり硬直してしまう。

 アリスと龍二と紅蘭が、なんだこれはという顔をする中で、マーリンは僕と真奈の反応に対して実に嬉しそうにその金属の名を口にした。


「これは〈オリハルコン〉だ」


「「「「は?」」」」


 マーリンの言葉に、龍二達4人の声が重なる。

 みんなが驚くのも無理はない。

 大抵のゲームや物語において〈オリハルコン〉は、基本的には最上位の金属として扱われる。

 それはこの〈ソウルワールド〉も例外ではなく、レジェンド級の素材として存在は確認されていたものの、入手方法が不明の為に今まで実物は誰も見たことがなかった。

 つまり今目の前にある〈オリハルコン〉は、蒼達ですら初めて見る超激レアのアイテムなのだ。


「私が持っていても宝の持ち腐れだ。故に賢者殿に無償でお渡しする」

「い、良いの?」

「ああ、目的の半分は君にコレを渡すことだったからね」

「ありがとうなの……」


 普段は半開きの瞳を大きく開き、震える手で真奈はマーリンから金色のレジェンドアイテム〈オリハルコン〉を受け取った。

 彼女はそれを両手で大事に抱えて、じっと〈賢者の瞳〉で眺めると詳細な情報を読み取る。

 真奈がこれ程まで真剣になるのには理由があった。それは彼女が以前に〈オリハルコン〉を作ろうと挑戦して、途中で挫折した唯一のアイテムだからだ。

 〈万能の賢者〉ですら作ることができなかったレジェンド級のアイテムを、一体どこで入手したのだろうか。

 蒼がマーリンを見ると、彼は首を横に振った。


「すまないけど、コレの出どころは言えないんだ」

「まさか何処からか盗んできたんですか?」

「そんな事するわけ無いだろ。ちゃんと理由を説明して、特別に譲っていただいたのさ。ただ一つだけ、その相手の名前は言えないんだけどね」


 一体誰から貰ったのだろうか。

 すごく気になるけど、僕が聞いてみてもマーリンは頑なに元の持ち主の名前を口にしようとはしなかった。

 どうやらこの男、変なところは口が堅いらしい。

 その傍らで〈オリハルコン〉をまじまじと見ている真奈が、嬉しそうにこう言った。


「……これを上手く使えば、術式の媒体にできるはずなの」

「そう、それが重要なんだ。話すべきなのは出どころ云々ではなく、これを使うことで蒼君の力に関する問題が、かなりクリアできる事だよ」


 真奈の言葉に乗っかり、話題を全力で逸らそうとするマーリン。

 露骨すぎて実に分かりやすいが、確かに彼が言うことにも一理ある。

 ただこれを貰う代わりに、彼がやらかしていた場合は僕達も共犯ということになるが。

 蒼が覚悟を決めると、急に袖を引っ張られる。

 何事かと視線を向けると、そこには何やらしょんぼりとした真奈の姿があった。


「姫様、わたしが見ている限りだと〈オリハルコン〉をどう加工しても恐らくは術式に耐えられないの……」

「ソウルワールドのことわりの中では、例え神の領域に踏み込む事のできる錬金術士でも無理だろうね。だからこそ、蒼君の力が必要となるのさ」


 みんなの視線が僕に集まる。

 マーリンは、続けてこう言った。


「さぁ、今日から君の中にある〈神の力〉の一滴ひとしずくを引き出すための修行を始めようか」

「もちろん、我の修行と並行して行うので死ぬ気で頑張れ従弟よ」


 ──地獄かな?

 この先、僕は生き残れるのかそれは正に神のみぞ知る事だった。

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