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第39話「ディバインソウル」

いつも読んで下さる方々に感謝しております。

 神威中央区。沢山の高層ビルが立ち並ぶ中にある、一つのビル。

 午前の授業が終わった直後、真っ直ぐに足を運んだ葉月真奈は、入り口に配置された警備の者に合言葉と『護衛許可証』を見せて中に入る。

 すると入ってすぐ目の前に待機していたスーツ姿の女性に案内されて、そこからエレベーターで最上階まで向かう。

 最上階に着くと、女性と同じスーツ姿だが、手に刀や大剣や片手直剣などを手にした剣士が5人ほど配備されていた。

 雰囲気で察するに、レベルは50よりちょい上だろうか。

 最初の女性を見たときから気づいていたが、やはり彼等が着ているスーツはただの服ではない。

 身体をソウルワールドの戦闘体に変える『変衣の結晶』によって構築された防衣だ。

 町中での『着装』は緊急時以外では国の許可が要る。それを許されているという事は、この建物にはそれだけ重大な何かがあるという事。

 スーツの女性は扉を開けると、中に入らずに扉の横に立ってわたしに入るように促す。

 真奈は従い、真っ直ぐに扉を通った。

 そして即座に思う。

 広い部屋だ。

 いわゆる会議室という奴だろうか。

 大きな円形のテーブルがあり、その周囲に高そうな椅子が置いてある。

 そして真ん中には、遠くの人物と会話するための魔術で作られた投影機が設置されていた。

 しかも最新式のやつ。お一つ確か数百億円するバカ高い代物だ。

 執事っぽい人に案内されて、真奈は椅子の一つに腰掛ける。

 すると離れた場所に一人の仮面を付けた黒い服の少年が現れると、真奈は普段の無表情を崩して感情をあらわに睨みつけた。


「黒の騎士……ッ」


 真奈から明確な敵意を受けて、仮面を付けた少年は気まずそうに後ろ髪を掻いた。


「ずいぶんと嫌われたみたいだな。まぁ、アリスを荒療治して悪いとは思ってるよ」

「違うそっちじゃない。夢の中とはいえアリスの前に姿を現して、それを姫様に伝えられたらどうする気なの!?」


 黒騎士は「あー」と間抜けな声を出すと。


「し、しまったな。そこまでは考えてなかった。でも口頭で封印って解けるのかな?」


 その言葉を聞いて、真奈は絶句する。

 幸いにもアリスは、夢の中に出てきた黒の騎士の話しを壱之蒼にはしなかった。

 もしもして、封印が解けていたら今頃は大惨事である。

 実力は最上位のくせに、戦闘時以外では

能天気で後先考えずに行動する、アリス以上の大バカ。

 わたしは、この男が大ッッッ嫌いだ。

 しかも姫様との関係は、到底許せるものではない。

 わたしは絶対に認めない。

 この大バカ野郎が姫様の『守護者』だなんて。

 ギャグにしても笑えない。

 そんな事を考えていると、突然目の前の投影装置が起動。

 魔石に込められた術式が柱状に展開。遠くにいる人物の姿を撮影している機器から受信すると、それを形にする。

 2人の前に姿を現したのは、無精髭を生やし浴衣を纏う荘厳そうごんな男性だった。

 ぱっと見の年齢は30代にしか見えない。

 だが投影した映像だというのに、見ていると無意識に心が引き締まる程の圧を感じる。


 これが『武神ぶしん』──壱之いちの呉羽くれは、姫様の父親にして世界最強の騎士だ。


 彼はこちらを見ると、こう言った。


『こんにちは、真奈ちゃん。蒼の様子はどうだい?』

「姫様は、元気にしています」

『そうか、それなら良かった。そこのバカ弟子が夢の中で変装もしないでアリスちゃんに姿を現したって聞いた時は、少しだけ肝を冷やしたけどね』


 そう言って、ジロリと黒の少年を睨みつける呉羽。

 世界最強の威圧を受けた彼は、冷や汗を流して速やかにその場に土下座をした。


「申し訳ございません、以後気をつけます」

『帰ってきたら説教だから覚悟してなさい』

「ゔぅ、わかりました」

「ざまーみろなの」


 怒られてしょんぼりする黒の少年を見て、少しだけ溜飲が下がる。

 だが今日来たのは、呉羽様やこんな奴と話しをするためではない。

 黒の少年が一週間前に派遣されて、とある大陸の遺跡から入手したという欠片、それを渡してもらう為だ。

 視線を向けると、その意図を察した黒の少年は土下座をやめる。

 そして歩み寄るとポケットから光り輝く何かを取り出して、テーブルの上に置いた。

 ぱっと見は、ただの石にしか見えない。

 だが白い光を放つそれは、とんでもない魔力を宿していた。


「これが『ソウルの欠片』……」

「正確に言うと『ディバインソウルの欠片』だな」


 かつてソウルワールドを創造したという『神』の欠片。

 極めた錬金術の鑑定眼で見ると、この欠片一つでとんでもない疑似ぎじ神造物しんぞうぶつが作れる事が分かる。

 それこそ2度とアリスの夢やこの街に現れないように、黒の騎士との戦いで今は弱っている『邪神』に対応した結界をこの街に作ることだってできる。

 ただ欠片でも『ディバインソウル』だ。結界は大丈夫だと思うが、欠片に直接姫様が接触しないように、細心の注意を払わないといけない。

 希望であり絶望をもたらす可能性の光を握りしめた真奈は、普段は見せない笑顔を浮かべると、黒の少年にお礼を言った。


「……ありがとう、なの」

「びっくりした、おまえちゃんと礼を言えるんだな」


 やはり殺す。

 万が一欠片を壊さないように左手に持ち、右手に錬金術の分解の陣を展開。

 触れるもの全てを分解する右手で、少年の胴を右から左に薙ぎ払う。

 しかし、それは空振った。

 紅蘭に勝るとも劣らない反応速度で後ろに跳んで避けた少年は着地すると、額にびっしり汗を浮かべて抗議した。


「あっぶな、今のは本気で殺そうとしただろ!?」


 その言葉に真奈は舌打ちで返答した。


「おしかったの」

「やっぱりおまえ可愛くない……」

「ふん、わたしの用事は終わったから姫様が家に帰る前に戻るの」


 先ずは欠片を使って、この街の結界の強化をしなければ。

 やらなければいけない事は沢山ある。

 椅子から立ち上がると、真奈は真っ直ぐに自分が入ってきた出入り口に向かう。

 黒の少年は呉羽様とまだ会話があるようで、2人ともこの場に残るようだ。

 部屋から出ようとした時だった。

 呉羽様から『真奈ちゃん』と呼ばれて立ち止まる。

 ちらりと室内を見ると、世界最強の男が頭を深く下げていた。

 彼は苦悩の思いを込めて、真奈に言った。


『本来は守るべき子供である君を巻き込んでしまって、本当に申し訳ない。蒼のこと、よろしくお願いします』


 言われるまでもない。

 姫様は自分の『光』なのだ。

 ベータテストで右も左も分からない自分に時間を割いて付き添い、仲良くしてくれた初めての友人。

 わたしが、絶対に守ってみせる。


「任せてなの」


 葉月真奈は改めて『壱之蒼を守る』事を決意すると、部屋から出ていった。

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