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第37話「黒の少年とアリスの悪夢」

いつも読んで下さる方々に感謝しております。

今回はシリアス注意です

「はぁはぁ……はぁ」


 ネームレスの店から逃げるように飛び出した黒の少年は、息を切らしてビルの屋上に身を隠した。

 全く、あと少しで上手く奴を討伐かその企みを阻止できたというのに、まさかあのタイミングで白の少女がやってくるとは思いもしなかった。

 蒼……タイミング悪すぎだよ。

 仮面を外して、黒の少年は胸中で呟く。

 今はまだ、白の少女と出会うわけにはいかない。

 会ってこの姿を見られたら、あの子はオレが封印している『記憶』を思い出す可能性がある。

 『世界七剣』の当主達が頑張って魔王達の進行を止めているというのに、あの記憶を思い出したら間違いなく蒼は■■に一歩近付くだろう。

 それに魔王は絶対に気づく。

 世界に一つしか存在しない『白の魔力』に。

 そうなれば全世界の魔王達が此処に向かってきて、彼女の為に作られた神威市は、確実に戦場となる。

 そんな事態を招いたら、他の当主どころか師匠にも殺されかねない。

 龍王に予言された『日本崩壊』の一つを自分が今起こすわけにはいかないのだ。

 でも、と少年は呟くと。


「蒼に会いたいなぁ……」


 今回前線を抜けてきた悪魔を葬る為に師匠に選ばれ、派遣された自分。

 いつもは周囲にいる護衛の方々が撮影しているのを見ているだけだが、今回遠巻きに直で見てわかった。

 殻が剥がれてからは、白の少女の美しさに磨きが掛かっている気がする。

 『白の騎士団』に対する演説も見ていたが、分け隔てることなく接するあの子の性格に惹かれない人間は殆どいないだろう。


「紅蓮の騎士も本気でアプローチしてきてるし」


 制限が撤廃されて、更に悪魔が蒼を狙っているのを知っている四葉の御曹司は、護衛を兼ねるために転校手続きを済ませると、早速朝から猛烈アタックをしてきた。

 と言っても、彼の場合は既に慣れられてしまっているので、蒼に対して余り効果はないようだが。

 それでも隣の席に座って話しをするというのは、他の人からしたら実に憧れるシチュエーションだろう。

 蒼からしたら迷惑でしかないが。


「会おうと思ったらそこにいるのになぁ」


 立ち上がり、遠く離れた喫茶店を見る。

 そこでは、白の少女が皆に囲まれて笑っていた。

 ああ、本当に良かった。

 あの笑顔を守れるのならオレは……。

 しかし少年の瞳は幸福な光景と同時に、辛いものを映し出す。

 白の少女の身体に絡みつく、いくつもの透明な鎖。

 それはとある代償によって、2つの世界に縛られてしまった蒼の呪われた繋がり。

 断ち切る術は無い。

 既にソウルワールドは殻を破って顕現して、それと同時に白の少女もその本質を露わにしてきている。

 蒼は知らない、自分が本当は■■だと。

 全てを知る時が来たら、きっと君はいつものように受け入れるんだろうな……。


「それでこんなところで何をやっているんですか、黒の騎士」

「その声は『金色の狩人』さん」


 背後から声をかけられて、振り向く。

 そこに立っていたのは、迷彩服に仮面をした金髪碧眼の女性だった。


「お久しぶりです、戦闘服を着ていても相変わらず綺麗ですね」

「貴方も相変わらず元気ね。前線は大丈夫なの?」

「それなら師匠がいるから問題はないですよ。ただ、近々『暴食の魔王』との決戦が始まりそうな感じはしますが」


 こちらは既に敵の幹部を9体も殺している。

 残る1体はネームレスに食われたが、これで後がなくなった魔王は自らが出てくるはず。


「来年の9月1日、予言された約束の日が来るまでにオレと師匠は、必ず全ての魔王を倒します」

「……蒼君の為に、壱之家は必死ね。ごめんなさい、私も前線に出られたら良かったんだけど」

「いえ、後方を守るのも大事な事ですよ。貴女と四葉とスサノオ天皇が日本にいてくれるから、オレ達は前線で戦えるんだ」


 ただ、と黒の少年は呟くと。


「……ネームレスが、何か企んでいるようです。警戒したほうが良いかも知れない」

「蒼君に直接危害は与えないとは思うけど、アイツの考えてる事は分からないからね。了解したわ」


 そう言って、彼女はオレの横に並び立つ。

 その視線の先には、白の少女に抱きつく金髪の少女がいた。


「幸せそうね」

「そうですね」


 同意すると、彼女は言葉にかなしい気持ちを込めた。


「このまま、何事もなく生活させてあげたいんだけど、やっぱりダメなのかしら」

「……離れようが側にいようが、傷つくことになると思います」

「そうね。本当は蒼君が■■だなんて知ったら、あの子は驚くでしょうね」

「……すみません、全てはオレのせいなんです」


 謝罪を言い、少年は空を見上げる。

 青い空と流れる雲。いつの時代になっても変わることのない景色がそこにある。

 それと違って、今の世界は波乱万丈だ。

 何が切っ掛けで爆発するか分からない。

 そんな危うい状態だ。

 でも守りたい子供達の為に、大人達は今は自分にできる精一杯の事をやっている。

 例え時間稼ぎにしかなっていなくても、少しでもあの子達の運命を変えられるならと。


「来年の9月か、長いようで短いな……」

「龍王に予言された期限はあと1年、それまでお互いにできることをしましょう」


 そう言って、屋上から飛び降りる金髪の女性。

 一人残された黒髪の少年は踵を返すと、名残惜しい気持ちを抑えて、その場から立ち去ろうとして。


「この気配は、まさかあのクソ邪神……!?」


 少年は呟くと、無視できない気配に対処する必要があると判断した。





◆  ◆  ◆





 ああ、またこの夢か。

 真っ暗な空。

 月明かりすらなく、周囲を照らすのは燃える街。

 その中で青髪の少女、伊集院アリスは立ち尽くす。

 足元に転がっているのは、共に死力を尽くして戦った仲間達。

 みんな〈着装〉を失っても戦った末に身体を両断され、光の粒子に変わっていく。

 この世界ではそうなのだ。

 〈着装〉無しで戦い死ねば死体は残らない。

 まるでモンスター達と同じ様に光の粒子となって消える。

 初めてそれを知ったのは、ゲームにログインできなくなった日。

 早朝に悲鳴を聞いて恐る恐る一軒家に駆けつけると、そこにはモンスターによって惨殺された人達の死体が転がっていた。

 しかも死体と玄関に広がるように飛び散った血痕は、あっという間に光の粒子に分解されて、幻のように目の前から消えた。

 そして奥から現れたのは、デカイ包丁を手にしたオーク。

 妾はリアルで初めて目撃したモンスターを、ソウルワールドで培った条件反射で初級風魔法『風刃』を放って倒した。

 すると、モンスターの死体もやはり光の粒子となって消えた。

 後には何も残らない。

 その事が恐ろしくなった妾は、その場から逃げ出して自宅の自室に籠もると、即座に両親に連絡を入れた。

 でも電話に出た両親は、2人揃って「ああ、騎士には連絡を入れておくから大丈夫だよ。怪我はなかったかい?」と言うだけだった。

 怖い、すぐに帰ってきてほしい。

 アリスは懇願したが2人とも「今は帰れない」と言って謝罪をするだけだった。

 一体何が起きているのか分からなかった。

 ここは現実世界だ。ソウルワールドじゃないと何度も自分に言い聞かせた。

 だというのに、テレビでは今まで放送したことのないモンスターや異種族に関するニュースをやっていた。

 そうやって何時間か引きこもっていた時だ。

 自室に籠もる妾を救ってくれたのは、白の少女だった。


「あの時の蒼様の姿は、二度と忘れることはないのじゃ……」


 マイクを手に自分の気持ちを学生達にぶつける白の姫。

 鮮烈なその姿に、共にあると約束したその姿にアリスは涙を流し、いてもたってもいられなくなって外に出た。


「蒼様……」


 大好きな人の名前を呟き、歩くのを止めるアリス。

 そこには、かつて彼女の家があった場所。

 しかし今は影も形も残っておらず、瓦礫の山と化している。

 ここに来るといつも泣きたくなる。

 その瓦礫の上に立っているのは、いつもの夢と同じ展開。

 絶対に起こってはいけない、金色の髪の少女の首を絞める、白髪の少女の姿。

 歩みを止めた自分を、少女はゆっくりと振り向く。

 見間違えることなんてあり得ない。

 その顔は、間違いなく白の少女──壱之蒼だ。

 だがその目に宿しているのは、普段の彼女の優しい光ではない。

 暗く、どす黒い深淵のような闇だ。

 見て分かる。

 あの目は自分が敬愛する少女じゃない。

 目の前にいるのは、敵だと。


「優から手を離すのじゃ!」


 杖を手に魔法を放つ。

 しかし、白髪の少女は片手に握る真紅の剣『レーヴァテイン』に付与した魔法でそれを切り裂く。

 ならば、と予め詠唱していた極限雷魔法『天雷』を杖に宿して圧縮。

 そこに生まれたのは極限魔法の剣。

 『七色の頂剣』でアリスを象徴とする最強の剣。

 それを持って駆け出し、白の少女に切り掛かる。

 だが横から飛び出してきた何かが、自分に体当たりをしてきた。

 振り下ろした剣の軌道がずれて、白の少女の真横の何もない空間を両断。

 一体誰だ。

 そう思ってアリスが見ると、先程まで自分がいた空間に胸を真紅の剣に突き刺され、大量の血を流す桃色の髪の少女が横たわっていた。


「真奈……お主!?」

「ばーか、なの……」


 いつもの小馬鹿にするような顔で笑って、力を失い光の粒子となるライバル。

 そして静寂に響き渡る、何かが折れる音。

 光の粒子になる幼馴染を放り捨てた白の少女は、その氷のような眼差しでアリスを見据えると笑った。


『君には、何も救えない』

「……ッ」


 涙が溢れる。

 悔しい。

 また、救えなかった。

 ライバルも、親友も。

 自分には、力が足りない。

 そんな自分を殺そうと白の少女が歩み寄る。

 今回はここまでか。

 そう諦めた瞬間だった。

 いつもの夢と違う。

 天から、何かが舞い降りる。


「おい、クソ邪神。こそこそとこんなところで何をしてるんだ」


 それは、黒い服を纏う少年。

 彼は白の少女に相対すると、背中から真紅の剣『レーヴァテイン』を引き抜いて構える。

 そして、自分に向かって叫んだ。


「諦めるな、アリス! これは2021年9月1日の中で最も最悪な未来の一つにしかすぎない。君達の絆が、蒼を邪悪な神から救うのだと覚えていてくれ!」


『守護者が、ここまで干渉してくるとは忌々しい奴め』


「うるさい、他人の夢に土足で絶望をバラまく悪趣味な貴様をオレは絶対に許さない!」


 白の少女は真紅の剣を手にすると、純白の極限付与魔法『神威』を発動。

 それに対抗する黒の少年は、同じ真紅の剣に漆黒の『神威』を発動させると、白の少女に向かって駆け出す。

 2人が同時に放つのは、極限魔法剣技『流星斬りゅうせいざん』。

 究極の白と黒、2つがぶつかるとアリスの意識は夢の中から弾き飛ばされた。

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